第6章 梵天の華Ⅱ
言われた通り、歌を歌いながら何とか完成させたカップケーキ。
オーブンレンジから鉄板ごと取り出して鍋敷きの上にそれを乗せれば、ふんわりと香ってくるお菓子特有の甘い香り。
私よりも先に大きく息を吸い込んだ佐野さんは、眠そうに閉じようとしていた目を開いてテーブルに預けていた体を起こした。
「食っていい?」
「あ、ど、どうぞ、まだ熱いですけど……あっ毒とかは入ってない、ので…!」
「…見てたからわかる」
「そ、そうですよね、すみません…」
出来たてのカップケーキを熱そうに摘んで持ちながら、紙製のカップを破いていく佐野さん。
湯気がたつそれを一口、ぱくっと音がしそうな勢いで口に運んだ。
瞬間。
ほんの、一瞬だけ。
佐野さんの目に、きらりと光が宿った気がした。
「……」
「…ど、どう、ですか…?」
ゆっくり、味わうように咀嚼して、喉仏が上下に動くのを確認してから、問う。
けれど佐野さんは…
「……」
「…っ、?」
何も言ってくれない。
美味しいとか、美味しくないとか、不味いとか…微妙、とか。
何か、一言でも言ってくれればいいのに…もそもそと無言でカップケーキを口に運んで食べている。
か、感想無しですか…?
何でもいいから一言欲しいのに…
顔にはあまり出ないように、しょぼんとする。…けど。
一つ目のカップケーキを食べ終わった佐野さんは、無言のままもう一つのカップケーキを手に取った。
そしてまた、それを口に運んでかぶりつく。
…美味しい、ということだろうか。
言葉にはしないけど、心做しか表情は嬉しそうに見える。
自分にとって良い方に解釈しておこう。うん、そうしよう。
「オマエ、何のお菓子作れんの」
「えっ?ぁ、クッキーとか、あの、簡単なものなら作れ、ます…」
突然、佐野さんがカップケーキを片手に立ち上がってソファーに向かった。
ボスン、と気だるげに深く座り、テレビの電源を入れて2つ目のカップケーキを食べる手を再開させている。
使った器具も洗い終わっていることだし、近くに行ってもいいかな…と思っておそるおそる近づく。
すると、振り返った佐野さんと目が合った。
どこか光が差し込んでいるその瞳を見て、出会った時よりは幾分か打ち解けられたのかな、と勘違いしてしまいそうになる。
「…たい焼き、作れる?」