第6章 梵天の華Ⅱ
咄嗟に顔を覆って、視界を閉ざす。
あまりにも眩しくて、眩しくて……2年間、日もほとんど差さない薄暗い部屋で過ごした私には、明るすぎて、耐えられない。
「う、ぅぅ…ヒック」
「…別に、生活まで縛るつもりはねぇ。外に出せないってだけで、この家の中でなら何したっていい」
三途の許す範囲でな、と鶴蝶さんの隣でそう付け足した佐野さん。
確かにここは春千夜さんの自宅。家主はもちろん、権限は何もかも春千夜さんにある。
顔を覆ったまま、手や腕に伝う涙を拭うこともせず、こくこくと何度も頷いた。
「まァ、鍵を持ってねぇ人間が内側から玄関のドアを開ければオレのスマホに通知がくるから、逃げても必ず捕まえるしどうやったって逃げらンねぇ。それは理解しとけよ蛍」
「グスッ…は、い…ッ」
逃げるつもりなんて微塵もない。
生きていてもいい、理由を与えてくれた。
例えそれが、私を駒として、ダシとして利用するためだけなのだとしても。
死なせない、と。
生かす、と。
言ってくれた彼らとの約束は、私にできる範囲ならば全力で守りたい。
嗚呼、どうしよう。
涙が止まらない。
もう二度と、こんな幸せを味わえないと思っていた。
クスリ漬けにされて、犯され汚されて、疲れて眠ってそのまま目覚めないような死に方をするのだと、そう思って諦めていた。
あのビルの部屋で、死ななくて良かった。
こんなにも眩しい未来に繋がっているなんて、知らなかったから。
顔から手を離して、涙を拭って。
それでも溢れてくるけど、滲んでぼやける視界に彼らを写して、ゆっくりと笑みをこぼした。
「ぁ、りがとう…ござい、ます…ッ」
心から笑えたのは、いつぶりだろうか。
「…けどマイキー、オレの家にどんだけの人間を出入りさせるつもりですか…」
「オマエほとんど家にいねぇからいいだろ」
「いや…コイツいるンで見張りも兼ねてなるべくいるようには…します、けど」
「そうしろ」
「うっす」
鶴蝶さんが昼食にと、私の体調を考えて用意してくれた味が薄めのオムライス。
ふわふわとした卵がとても美味しかった。
佐野さんも鶴蝶さんに強請り、作ってもらって食べていたけれど、もしかして……オムライス、好きなのかなぁ。