第6章 梵天の華Ⅱ
「んじゃ今日はやらねぇけど。これからも幻覚とか別の症状が出てくる可能性もある。その時は何がなんでもやるから」
「ぅ…はい…」
「あと、痩せすぎだ。太れ」
「えっ」
ふ、ふと…太れ???
歳若い娘にそんなこと言っちゃうの???
確かに、まともな食事をしていなかったせいで、あばら骨も浮き出ていて見るだけで気持ち悪いし、ずっとベッドに繋がれていたせいで筋肉だって落ちている。
歩かせてくれたのは、トイレと2日に1回のお風呂の時だけだったから。
…でも、なんか…太れ、って言われるとちょっと…うーん…。
体重増やして、とかなら……うん、自分でそう思うようにしよう。
「鶴蝶、何食わしてる?」
「今朝はお粥とリンゴとバナナ」
「…まァまだ胃が受け付けねぇか。でも徐々に食えるようになれよ、オマエが死んだら全部がパァになるから」
「は、い…」
「勘違いすんなよ〜蛍、全てはオマエの親父と繋がるためにやってンだからなァ?」
佐野さんの背後に立って振り返った春千夜さんの言葉に、了承の意をこめて何度か頷く。
「んなこと言うなよ…」と、冷蔵庫から卵を取り出した鶴蝶さんがしかめっ面をしたけど、大丈夫ですと伝えた。
何となく思う。
鶴蝶さんはお母さんのような人だ、と。
だって、キッチンに立って…フライパンを持ち始めた姿が、とても似合っているし本当にお母さんみたいだから。
料理できるんだ……あ、そういえば今朝のお粥すごく美味しかったな。
鶴蝶さんの手作りなんだ…。
「あ、の、…かく、ちょうさん」
「…あ?オレ?」
「…お粥、美味しかったです、…ご馳走さまでした」
「!? お、おう」
座ったままお辞儀をすれば、鶴蝶さんは目を見開いて卵を落としそうになっていた。
慌てて両手でひとつの卵を支え、キッチンにそれを置いてため息を吐き出している……なぜ?
「あ?んだよカクチョ〜照れてンのかぁ?」
「…ッせぇよ黙れヤク中…」
「つか三途オマエ、いつの間にコイツのこと名前で呼ぶようになったん」
「…成り行きだ」
「ん゙ッふ」
何だか楽しそうだけれど、耳が赤くなっている鶴蝶さんを見て、何となく私も恥ずかしくなった。
お礼を言って恥ずかしくなるって…まるで思春期みたい。