第6章 梵天の華Ⅱ
「…無敵の、マイキー?…梵天の…?」
「…だったら何」
無敵のマイキー。
梵天。
私がいた場所と違うことは明らかだった。
だって、そんな…日本最大の犯罪組織と呼ばれる彼らが、監禁されていたあの場所に来たことなどなかったからだ。
“梵天”。
賭博、詐欺、売春、殺人…。
日本最大と呼ばれるだけあって、警察ですらしっぽを掴めない最強の犯罪組織。
父が、私が拉致される数日前に言っていた組織。
自分は関わるつもりはない、と首を横に振っていた父に、すぐに伝えたい。
私の目の前に今、その“梵天”がいます、と。
「ッ…良か、った…」
あの場所にいた組織じゃないなら、私を殺してくれるはず。
だって何の価値もないのだ。
体を傷つけられ、汚されて、おそらく子供も産めない体になっている私。
痣だらけで薬漬けとなれば、一銭にもならないクズ同然。
願えば、死ねる。
殺してもらえる。
そう思っていたのに、梵天の首領さんは私を生かすと言った。
どうして、どうしてと叫んで、悔しさで涙がこぼれ落ちる。
しかしその反面、嬉しかった。
生きていていいのかと。
汚れてしまった私という存在を認められたような気がして、別の意味の涙も同時に流れた。
熱がある、と気づいたのは、首領さんが目の前でしゃがみ込んだ後だった。
どおりで、浮遊感と気だるさが体を支配しているわけだ。
解熱剤を飲ませる。
解熱剤、解熱剤…とよく働かない頭をフル回転させて、解熱剤の意味を理解しようとする。
解熱剤、つまり熱を下げる薬。
一般のドラッグストアでも売っているものだし、一般人でも普通に買って気軽に飲める、危なくない薬。
頭ではわかっていても体がひどく拒絶し続けて、結局は口移しで飲まされてしまった。
舌を噛み切られるかと思ったのに、そんなことはなくて。
あまりにも上手く薬を飲ませられるものだから、何だか心地よくて、肺に酸素を取り込んでいるうちに意識が途切れていた。
生きていて、いいのなら。
もう一度、眩しい太陽の下で…大好きなお花を眺めて、愛でていたいなぁ。