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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第6章 梵天の華Ⅱ





ふと目が覚めて、いつもとどこか違う天井と状況にひどく混乱した。

薄汚れたシーツのベッドじゃなく、革張りの高級そうなソファーで眠っていた。
気を失う前は裸だったのに、見たことも着たこともないTシャツを着ていた。
手錠と鎖が手首に付いていなくて、自分の手はこんなにも軽かったかと感覚が鈍った。

体の表面も、髪も、スベスベと肌触りがよくて。
弄ばれていた下半身も、水っぽい違和感が全くない。

腕に繋がれた管は、また薬を投与されると思って慌てて引っ張って腕から外した。
痛みなんて感じなくて、それよりも恐怖が私を襲う。
もう気持ち悪くなりたくないから。
針が刺さっていた部分から、真っ赤な血がじわじわと溢れてきて、止まる様子がないけれど構ってられない。



逃げなくちゃ。



死にたいと願っていたはずなのに、何故かそんな感情が芽生えた。
きっと、今までいた最悪な環境とは正反対のような場所にいるからだ。

何だか足取りも軽い。
頭は…まだふわふわして、目も霞んで焦点が定まらないけど、あの場所にいた時よりかなりマシになっている。

これなら歩くだけじゃなく、走れそうな気がする。

月明かりが差しこむ窓の外を覗くけど、コンクリートの地面が見えなくて夜景だけがいやに綺麗に見えたから、やめた。

反対側の、ドアへ近づく。
耳を当てて音がしないことを確認してから、ゆっくりとドアノブを下げて、ドアを押して開けた。







簡単にいくはずがない。
人生というのはそういうもの。

開けたドアの先で待ち構えていた、三人の男。
焦点がまともに合っていないからよく見えないけど、髪が紫色でスーツを着た二人の男の人の喉に、刺青があった気がする。


今まで私を弄んだ男の人たちの中に、あんな刺青をしている人はいただろうか。


状況は最悪な方へ向かい、三人の男の人たちとは別の男の人たちが、ぞろぞろと部屋にやってきてしまった。

もう、逃げられない。

一時でも、期待を裏切られたショックが大きすぎて、体の震えが止まらない。
頭がふわふわする。
体が熱い。
ゆっくり呼吸が出来ない。

抵抗するために、幼少期に使い方を習った銃を奪い、構えた。

でも、長い間ずっと監禁されていたあの場所と違う、この状況の真実が唐突に明かされて…白髪の男の人をただ見つめた。


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