第6章 梵天の華Ⅱ
あの日はただ、大好きなお花を眺めていた。
家柄のせいで、通学以外の理由ではほとんど外に出してくれなかったから、父が私のために庭に植えさせてくれた、咲きほこる花を愛でていた。
天気が良かった。
ぽつりぽつりと雲が浮かんでいて、そよそよと心地よい風が吹く、太陽の眩しい午後だった。
どうして。
直前のことはこんなにも覚えてるのに。
背後から音もなく忍び寄る影に、真っ白な布で鼻と口を塞がれて。
独特な薬品の香りがして。
気がつけば、私は地獄にいた。
「いやぁッやめてぇ離してっ!触らないでッ!!」
手首に手錠をかけられ、鎖でベッドに繋がれて。
厭らしい笑みを浮かべて、毎日、何度も、私の体を弄ぶ知らない男の人たち。
嫌なのに、気持ち悪いのに、無理やり与えられる男の人たちの欲を体が勝手に快楽として拾って。
無意識に痙攣して、汚されて、数え切れないほどの欲を浴び、受け入れさせられ、吐き出したくても飲み込ませられた。
ストレスで、生理が止まったことにすら気づく余裕もなかった。
大人しくしていれば体を殴られ、蹴られた。
暴れれば、腕や肩に注射器の針を刺されて、液体の薬を投与されて、頭をおかしくさせられた。
目が回って。
吐き気がして。
頭痛がして。
面白くないのに笑って。
薄暗い部屋なのにキラキラして見えて。
食欲も無くなって。
体中に虫みたいな黒い影が這いずり回る光景を毎日見て。
数日で薬の効果は完全に切れるらしく、切れた瞬間に関節が痛くて痛くて悲鳴をあげた。
悲鳴をあげれば、色とりどりの錠剤を無理やり飲ませられた。
毎日毎日、何時かもわからない辛く苦しい日々。
眠るか、弄ばれるか。
いっそ殺してほしい。
うわ言か、心の中で言ったのかわからないけど、何度も何度も、毎日、目が覚めている時は常に願った。
私が、いったい何をしたというんだろう。
幼少期から父に愛でられ、4つ上の兄はいつもそばにいて遊んでくれた。
ただ…一人、母だけは難しくて、厳しくて…叱られるとき以外で話しかけられたことが無かったけど。
組の人たちも、挨拶してくれたし、話しかけて、話しかけられてたくさんお話した。
幸せ、だったのに。
地獄を味わってから、助けを求める気持ちなど頭の隅にすら残っていなくて。
ただただ、死を願い続けた。