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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第5章 梵天の華Ⅰ




家に持ち帰り、それから3日間。
女の熱は下がらなかった。

途中目が覚めて食事したり風呂に突っ込んだり、着替えたり。自分でできそうな範囲は自分でやらせた。
あの後九井に渡された解熱剤も自分で飲んでもらい、オレはただ見張り役として女を家に置き、仕事も預けてもらえず暇を持て余した。



「よぉ、熱下がったか」
「っひ…!?」
「あ?ビビってンじゃねーよオレん家だぞここ」



悲鳴上げてぇのはオレだっつの。

あの日から4日目の朝、リビングで情報収集のためにソファーでテレビを見ていた。
キシッと小さく廊下の床が鳴り、振り向けばふらふらとした足取りの女がそこにいて、声をかける。
思いきりビビられて顔をしかめるが、何故か怒る気にはならず…朝食を用意する為に立ち上がり、普段使うことのないキッチンへ向かった。

「ほら食え」と言ってダイニングテーブルに水を入れてレンジで温めたお粥と、皮付きで切られたリンゴと半分のバナナ。見るからに病人食であるそれを置けば、女はゆっくり歩み寄ってきて椅子に腰掛けた。



「ごはん…」
「鶴蝶が用意した」
「…かく、ちょう…さん」
「で?熱下がったンか」
「ッ!」



3日間ずっと熱が下がらなかったせいで、脳が正常に働かないのだろう。ぼんやりとお粥に添えられたスプーンを手にして固まっている。
首筋に手の甲を当てれば女の肩が大きく揺れたが、気にせず体温を確認した。

食った後に体温計で計ってもらうけど、たぶん平熱だ。
あったとしても微熱程度まで下がっているはず。



「ん、やっと下がったなァ」
「っ…」
「残さず食えよ。じゃねーとうるせぇンだよアイツ…」
「…い、ただき、ます…」



熱が下がらない間、ゼリーや果物の缶詰しか口にしなかった女は、初めてオレの前で飯を口に運んだ。
もそもそとゆっくり咀嚼して、音もなく飲み込む。

「…おいしい」と呟く女の額に貼ってある冷えピタを剥ぎ取りゴミ箱に捨てて、ソファーに戻った。










しばらくして、背後から食器を片付ける音が聞こえた。
かと思えば、ペタペタと小さな足音をたててオレがいるソファーに近寄ってきて、あろうことか空いている隣に座りやがった。

まァ、だからと言って今更怒る気にもなんねぇけど。
ほんとに逃げねぇな、コイツ。
この間と変わらず、殺されるのを待ってンのか?


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