第5章 梵天の華Ⅰ
「けど兄ちゃん、」
「熱あるとしんどいよなぁ?竜胆もよくちっちゃい頃熱出るとさぁ、兄ちゃん兄ちゃんつって離してくんなくてさぁ」
「…いやどーでもいいワ」
あ゙?とオレを睨みつける蘭に、もう一度「どーでもいいつってんだよ頭イカれてんのか」と言って睨み返す。
「竜胆かわい〜だろ糞ヤク中がぁ」
「キメェわ、まじ無理」
「オレで争うのはヤメテ」
「キッショ!吐くわぁ」
「三途きったね」
お前らのブラコン秘話なんか興味ねーッつの。
キマってる時なら聞いてやらなくもねぇけど、素面じゃぜってぇ無理だ。
鳥肌が止まらねぇ。
「…茶番終わったか」
「うっすスイマセン続けてください首領」
「…蕪谷蛍。2年もの間、逃げる隙は無かったのか」
「っ…に、2年…?」
「……」
「ふ…ッ、ケホッ…2年、も…私…っ」
「…オマエの親父…蕪谷組を知りてぇ。死にたく無かったら答えろ」
「っ…わ、かりませ…」
「蕪谷組の娘なら何でもわかんだろ、嘘つくな」
よほど口が硬ぇのか、何にも知らねぇのか。
真相は女自身が握っている。
だから、どうしても口を割らねぇってンなら、取引は諦めてコイツをスクラップにするしかねぇってことだ。
「…オレらは犯すってよりスクラップにする側だしぃ?何ならここであの世に逝かせてやってもイイんだぜ?蛍チャンよォ」
「っ…父の、仕事に関わった、ことはッ…ないんです…っだから、」
用が済んだなら早く殺してほしい。
もう疲れた。
酷く汚れてしまって家の者に合わせる顔がない。
と。緩く瞬きを繰り返して、マイキーが向ける銃口に顎を押し付ける女。
熱のせいか苦しそうなものの、覚悟は決まっているらしい。
「…ンな簡単に殺すか。取引が成立するまでは余程のことがない限りオマエを生かす」
「っ、え…?」
「三途、解熱剤飲ませといてくれ」
「了解です」
銃を女から離し、マイキーは部屋の外に出ようと立ち上がる。
その姿に、女は焦ったようにもがき始めた。
「ど、して…?殺して、私を殺してくださいッ」
「うるッせぇよ黙れ。首領の言葉は絶対だ」
「ビジネスが成立したらどうなるかわかんねーけどな」
「蘭おさえろォ」
その言葉を合図に、蘭は心底楽しそうに後ろから女を抱きかかえた。