第5章 梵天の華Ⅰ
「はあ?今さら何言ってんだテメェ?」
オレの言葉と同時に、マイキーも力が抜けたらしく。
いつもより少しだけ目を開いて、ただ黙って女の言葉を待っている。
今さらが過ぎる。
オレらが女を発見し運んだのは、約6時間前。
まずソープランドで目覚めた時、蘭がそばにいた。
それからここで目が覚めた時、竜胆が女を抱きとめて蘭と二人でなだめた。その時に梵天の目印である刺青も見えていたはず。
まァ顔が割れてねぇってのもあるけどよォ…
「オレら梵天とォ、あんなクソみてぇな屑共を一緒にすンじゃねぇよ、スクラップにされてぇのか?あ゙?」
「ッ…良か、った…」
「…は」
「私てっきり、またお、襲われる、と思…ッ」
へにゃり。
そんな音が聞こえてきそうなほど緩く、女は頬を緩ませた。
かと思えば、グラッと体が揺れて前に倒れていく。
「あ」と口を開いて驚くオレたちより先に蘭が「アブねっ」と慌てて女を支え……すぐ、何かに気づいたようにふと目を見開いて小さく呟いた。
「…すっげぇ熱いンだけど」
ゆっくりと抱き起こしながら、女の首元や額に手を当てる蘭。
そのせいで持ち上がった女の顔を見れば、目は光をうつさず虚ろで、口で苦しそうに呼吸を繰り返していて。
顔も赤く、わずかだが眉間にシワが寄っている。
蘭の一言にマイキーは立ち上がり、歩み寄って女の目の前で止まった。
しゃがみこみ、下から睨みつけるように顔を近づけて、顎の下から銃口を突きつける。
…近ぇ。
近ぇンだよクソ女、マイキーから離れろ。
熱あるって、風邪でも引いてンのか?なら今すぐ離れろよマイキーに移ったらどうしてくれンだスクラップかぁッ!??
やっべぇヤク切れそうッ!!!
「オマエ、誰にどうやって拉致された?」
「っ、は…はぁ、ぅ…」
「箱入り娘だったんだろ」
「ぐ、ぅ…っは、ふ」
「…オ〜イ、黙ってねぇで答えろクソ女」
マイキーに見つめられながらただ呼吸を繰り返す女に、新たな銃口が近づく。
梵天ナンバー2のオレよりも先に、兄である蘭を一時でも人質にとられていた弟、竜胆はマイキーの斜め後ろから腰を曲げてかがみ、女を見下した。
が、何故かずっと機嫌のいい蘭はそれを許さない。
「竜胆やめろ〜?蛍チャン怯えてる」