第5章 梵天の華Ⅰ
「は、」
「っな」
「ッ!?」
一瞬だった。
蘭の手から銃を奪い取った女、蕪谷蛍。
腹部に回っていた蘭の両手首をその場で一纏めにして掴み、腕を上げて自らの頭上にある蘭のこめかみに銃を突きつけた。
あまりにも動きが俊敏で目が追いつけず、少し遅れて幹部全員が女に向かって銃を向けた。
ガチャガチャと銃の撃鉄を起こし、スライドを引く音が部屋に響きわたる。
やべ〜オレ蜂の巣になンじゃん♡と手を掴まれ銃を突きつけられたままの蘭は、呑気に笑っている。
「兄貴!!」
「動かないで…ッ」
「…おい、何のつもりだテメェ。ガキが持って遊んでいいオモチャじゃねぇンだぞそれは」
女の頭に銃口を向けるオレの言葉に、女の喉が上下する。
が、体勢を崩す様子はない。
「…ぅ、撃ち方、くらい…小さい頃に、教わっ…て、ます…ッ」
「は」
「う〜わ、まじ?オモロ。なぁオレ死ぬ感じ〜?」
さすがヤクザの娘、と言うべきか。
つい数分前までビクビクと怯えて、竜胆と蘭を突き放せずにいたのに…血筋のせいで、武器を持てばこうも変わるのか。
震えと荒い呼吸はおさまってはいないものの、明らかな殺意が女から醸し出ている。
銃の構え方が素人ではない。
よほど教えこまれたらしい。
「オイてめぇ、生きて帰れると思うなよクソ女ッ!!!」
「やめろ竜胆」
「っは、何でだよマイキーッ!?兄貴が人質になってんだぞッ!??」
荒らげる竜胆の声に、女は一瞬ビクッと肩を揺らすが、蘭の手を離さず銃も下ろすことはない。
…けど、何かを思い出したかのように表情が少し緩んだ。
「…まい、き…?」
「あ゙?首領を呼び捨てしてンじゃねぇよオイ」
「…無敵の、マイキー?…梵天の…?」
「…だったら何」
ポカンと口を開け、蚊の鳴くような声で呟く女。
徐々に蘭へ向けていた銃口が下がっていき、掴んでいる手も緩んでいく。
首を傾げて「あれ、どしたん?」と言う蘭に返事をすることはなく、女はどこか目を輝かせながら銃を下ろしきり、その手はソファーへ落ちた。
「ここは…まさか、梵天のアジト、ですか…?」