第5章 梵天の華Ⅰ
開ききる前に、竜胆がこっち側からドアを掴んで思い切り引っ張った。
その引っ張られる勢いで同時に現れたのは、車で見たっきりのロングTシャツの女。
雑に伸びた髪を揺らし、前のめりでこっちの部屋に倒れ…
「ぅ…!」
…込む前に、竜胆がそのまま腰に手をまわし抱き留め、ドアノブを掴んでいた女の手を握り上に持ちあげた。
身長差のある竜胆に引っ張られ、女は背伸びする体勢になり、ハッとしながら竜胆を見上げた。
「ッヒ」
「おい、なに逃げようとしてンだコラ」
「ぁ…っは、離し…!」
「いや別に取って食いやしねーって」
竜胆から離れようと暴れるが、クスリ漬けでガリガリの女が男に適うわけもなく。
女は体力が低下しているせいか呼吸を荒くして、掴まれていない方の手で竜胆の胸を押して抵抗しても、何ともない竜胆の腰を抱く腕はさらに強さを増し、コキッと関節が鳴る音が聞こえた。
「オッサンくせぇセリフ言うようになったなお前」
「…見てねぇで何とかしろよ」
「嫌だわ。おい女ぁ諦めろォ?どうやったって逃げらンねぇよ」
「ヒッや、離して、やだっ」
まだクスリが抜けきっていないのか、虚ろな目から涙を零し、今にも折れそうな体で必死に抵抗して諦めない女。
そんな姿にだんだんイラついてきて、思わず舌打ちをしながら立ち上がった、直後。
「ん゙…〜ぁあ゙?ンだようるせ〜なァ」
ジタバタと女が暴れる音で、さすがに目が覚めたらしい蘭は起き上がり、ボーッと二人を見つめる。
起きンのおせーよ、と頭を平手打ちしても、そんなことを気にする様子もなく蘭は乱れた髪を直しながらオレの横で立ち上がった。
「兄ちゃん」
「竜胆、どしたん」
「いや、ずっと怯えてるし暴れッからどうしよっかな〜って」
「まあまあ、落ち着け〜?今は何もしねぇからぁ」
「ッ、!」
ゆっくりと二人の元へ歩み寄り、竜胆からそっと女を奪い取る蘭。
正面から抱きしめ、包み込むように女の背中で腕をクロスさせている。
まるで恋人にするような扱い方に、オレも竜胆も空いた口が塞がらない。
あいつ、オレの知らねぇ間にキメたんか…?