第1章 オレにはしてくんねーの?《松野千冬》
あれからもう、半年。
そろそろ先に進みたいと思うのは、オレだけだろうか。
「蛍〜、もっかい。なぁ、」
「しっしたいなら千冬からすればいいじゃんっ」
「…へ〜、いいんだ?」
「あ、えぅ…っ」
自分から堂々と誘ってしまった、という事実がよほど恥ずかしかったのだろう。
オレから視線を逸らした蛍は、ヘナヘナと萎れるように俯いてしまった。
いや、可愛すぎだろ。なんだこれ。
「み、見ないで千冬…」
「やだ。なあこっち見て蛍」
「み、見ないもん、見れないっ」
「蛍」
「や!」
「好き」
「! くぅ…っ」
口角が無意識に上がる。
蛍からキスを誘われた以上、生半可なキスはしないつもりだ。
蛍もそれをわかっているのか、オレの服から手を離して顔を覆ってしまう。
「…蛍、オレはさぁ、キスするならただ触れるだけのじゃなくて、」
「!?」
顔を覆っていた手を退けて蛍の顎をグッと持ち上げれば、嫌でも目が合う。
熱が引かない真っ赤な顔は、恥ずかしいのか今にも泣きそうだ。
顎と同時に後頭部も引き寄せ、今度は鼻じゃなくて唇を触れさせながら、
「こっちの方してぇんだけど」
蛍が何かを言いだす前に、驚いて薄く開いた蛍の唇の隙間に舌をねじ込んだ。
「ち、ぁん、ンんッ」
「っ、は、蛍…」
「ンふ、ぁ…ゃ、ちふ…ン、くる、ひぃ…っ」
別に、舌を使ったキスが初めてなわけじゃない。
蛍からはされたことがないけど、何度もしている。
なのに、蛍は未だに慣れてくれない。
鼻で呼吸しろッつってんのに。
キスする度に言ってンのに。
まあ、そこがまた可愛いんだけど。
「んッふ、…蛍、もっと口開けろ」
「や、ぁ…も、むり…ッ」
「まだ。足んねぇ」
逃げまわる蛍の舌を追って、絡めて、蛍の口端から溢れたどっちのものかわからない唾液を舐めとって、下唇を軽く吸って。
クーラーの音に加えて、くちゅ、くちゃ、といやらしい水音が響く。
その度に、蛍の体が反応するから…
…いい、かな。
蛍にゆっくり体重をかけて、そっと押し倒した。