第1章 オレにはしてくんねーの?《松野千冬》
──告白したのは、オレじゃなくて蛍だった。
昼休み、知らない女子に「放課後、第一化学室にきてほしい」とまったく緊張するそぶりもなく堂々とした態度で言われ、この人すげぇ…と無意識に感動して。
何となく「告白かぁ」と察した。
でもオレには好きな子がいるし、断る以外の選択肢ねぇからいいか…なんて軽く考えながら、めんどくさいながらも放課後に指定された場所へ行った。
一応ノックをしてから教室に入れば、教室のすみで椅子に座って手遊びをしていたのは、オレの好きな子本人、蛍だった。
びっくりしすぎて、思わず教室の扉を閉めそうになって。
待て、やべぇ、ここで帰ったらオレいろいろ終わる、あれ、教室間違ってねーよな!?と動揺しながら標識を二度見くらいして確認したけど間違ってなくて、「…、うす」と小さく挨拶して足を踏み入れた。
勢いよく立ち上がって椅子を倒してしまった蛍は、慌てて椅子を戻してオレにおそるおそる近寄ってきて。
『っま、松野、くん、』
『…おう』
『あ、ぁあの、あのねっ』
『……っぷ、はは、動揺しすぎ』
『え!?だ、だって…えええ…』
『それで、なーに?』
『う、えと…あの、ね…』
余裕ぶって笑って、震える手をポケットに突っ込んで緊張してることを隠した。
恥ずかしさと緊張で泣きそうになっている蛍をじっと見つめて、あー可愛い、なんて釣られて泣きそうになるのを堪える。
『わ、たし、私ね、松野くんのこと、ずっと前から、ち、中学の頃から知っててね、』
『え、…は?中学!?』
『ぅえ?うん、中学の頃から…』
『…まじか』
どうか荒れてた1年の頃は見られてませんように…。
『うん……それで、あの、かっこいいなぁ〜って、ずっとね?思っ、てて…』
『ん゙ッ…、うん』
『…嬉し、かったの……委員会で、一緒に作業できて』
『…おう』
『緊張しすぎて、き、嫌われないかな〜なんて考えちゃって…』
『…あー、いや、むしろ好…』
『え?』
『…何でもねぇ』
呼び出されたのにオレから言ってどうすんだ馬鹿ッ!
口走ってしまいそうな口を慌てて押さえた。
沈みだした夕日が窓から差し込んで、眩しい。
『す、好きです。松野くんの、こと』
『…あの、良かったら、お付き合いできたらな、って…』