第4章 じゃあ、オレのになって《三ツ谷隆》●
フロアに4つドアがあるうちの、手前から2番目のドアに鍵を差し込んで、少し乱暴にドアを開け放った三ツ谷くん。
タクシーの時みたいに家の中に押し込まれて、その後に入ってきた三ツ谷くんはドアを閉めてカチャンッ、と鍵をかけた。
夜だから、家の中は真っ暗で。
鍵を閉める音が異様に響いたけど、不思議と恐怖は襲ってこなかった。
だってここ、三ツ谷くんの匂いが染み付いてる。
まさか…と思って振り返ろうとしたら、それよりも早く三ツ谷くんが後ろから抱きついてきて。
驚いてビクッと体を揺らしてしまったけど、お腹と、胸の上で肩を抱くようにまわる三ツ谷くんの腕があまりにも優しくて、振りほどこうという感情は芽生えない。
三ツ谷くんの匂いが、いっそう強くなった。
「…蛍さぁ」
「えっ?…あ、うん…」
「彼氏いる?」
さっきまで、私のことを苗字で呼んでいたのに。
急に下の名前で呼ばれて戸惑ったけど、それを覆すかのような質問の内容に体が硬直する。
「か、カレシ…?」
「ん」
ドクドク、心臓がうるさい。
きっと、密着している三ツ谷くんにも聞こえてしまっているはず。
でも、心做しか私の背中に伝わる微かな振動に、三ツ谷くんもドキドキしてるのかな、と思って。
それに気づけば、鼓動はさらに速くなってしまって…息を飲み込むと同時に、頬に熱が集まっていく。
思わず、肩にまわる三ツ谷くんの腕を両手でそっと握った。
「……や、え?ぃ、いない、けど…今は…」
半年前に元彼と別れて、それっきり。
出会いを探し求めるのが面倒くさく感じて、しばらくはフリーでいようかな、と思って、そのままだ。
私の言葉に、「そ、っか…」と、掠れた声で呟いた三ツ谷くん。
お酒の匂いが混じった三ツ谷くんの吐息が、ひどく熱くて。
抱きしめる強さも、さっきより強くなって。
心臓が、今にも破裂しそうだ。
「じゃあ、オレのになって」
「…っ、え?」
髪で隠れた私の耳にぴたりと口をくっ付けて、息を吹き込むように囁いた三ツ谷くん。
返事をする間もなく、一瞬で振り向かせられた私の唇は、熱くて少し乾燥した三ツ谷くんの唇に、隙間なく塞がれていた。