• テキストサイズ

【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第4章 じゃあ、オレのになって《三ツ谷隆》●




「…じゃあ、私のことは?」
「は」
「“そういう目”で…見れる?」



驚く三ツ谷くんの目を見つめて、自然と小さくなった蚊の鳴くような声で、問う。
徐々に表情が無くなっていく三ツ谷くんを見つめているのが怖くなってきて、目を逸らそうかどうか迷っていた、その時だった。



「…それ、本気で言ってんの」
「…や、あの…」
「帰る」
「えっ?」



ほら。
言わなきゃよかったのに。
三ツ谷くんを怒らせてしまった。

どうしよう、謝った方がいいよね?と、席を立ち上がった三ツ谷くんをオドオドしながらも座ったまま見つめ、謝ろうと口を開いた。
でもそれより先に、三ツ谷くんの手が私の手首を掴んでいて。
驚く間もなく、三ツ谷くんは私の手を引っ張って立たせるから何も考えることができず、とりあえず慌ててカバンを引っ掴んだ。
私の手首を握ったままどこへ行くのかと思いきや、着いたのは居酒屋のお会計所。



「あーお釣りいらないッす。ご馳走様」



呆然とする私をよそに、お会計を済ませてしまった三ツ谷くん。
お釣りいらないって言う人いるんだ、初めて見た…なんて思いながら店を出ると、すぐにタクシーを拾った三ツ谷くんは、勢いのまま私をタクシーに押し込んで、まるで私を逃がさないかのようにすぐ隣に乗った。



「え、えっ、三ツ谷くんっ?」
「ここまでお願いします」



三ツ谷くんにスマホの画面を向けられて、しっかり頷いた運転手さんはタクシーを走らせた。

車内に三人もいるのに、会話がひとつもなくて。
三ツ谷くんに話しかけても、窓の外を向いたまま何も答えてくれない。

でも、手首が解放されることはなくて…次第にそこだけ熱を帯び始める。
何も言わないし目も合わせてくれないけど、三ツ谷くんを怖いと思うことはなくて。

ただ、どこに向かってるんだろう、とか。
三ツ谷くんは今何を考えてるんだろう、とか。
ちらちらと三ツ谷くんに視線を送るけど。
目的地にたどり着くまで、三ツ谷くんは一度も私を見てくれなかった。



「お釣りいらないんで。ありがとうございました」
「ねぇ三ツ谷くんってば…ッ」



またお釣りを受け取らない彼に、少し大きい声で問うけど、反応はなくて。
目的地…住宅街にそびえ立つマンションの中へ、…今度は手を握られてただ引っ張られる。

乗ったエレベーターは3階で止まった。


/ 257ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp