第4章 じゃあ、オレのになって《三ツ谷隆》●
「え、それじゃあ20歳の頃からアトリエ持ってるんだ?」
「独立はまだできてねぇけどな」
「充分すごいよ?…ファッションデザイナーかぁ、素敵だね」
会場だったホテルから歩いて10分の、安くて美味しい居酒屋。
久しぶりに会う同級生と話し込んでしまい、ろくに食事せずお酒を飲んでいたから悪酔いするといけない…と思って、いろんな種類のお酒が飲めるバーではなく、ここにした。
ちょっとしたおつまみを口にしながら、高校時代からずっと会えなかった分、お互いのことを順に話して、楽しむ。
高校時代から密かに想い続けている三ツ谷くんが相手だから最初は緊張してたけど、会話が途切れることはなくて。
ただただ、楽しい。幸せ。
それだけが私の心を満たして、ほろっと酔いが回って…気づけばだいぶ時間が過ぎていた。
「三ツ谷くんさぁ」
「ん?」
「彼女いるでしょ」
「彼女?」
「だって、三ツ谷くんかっこいいもん。女の子たちが放っとかないよ〜」
なんて、少しだけ呂律が回らない口でとんでもないことを聞いてしまって。
ハッと我に返るけど遅くて、三ツ谷くんはハイボールが半分残っているジョッキを手にしたまま、目を丸くして私を見つめていた。
これで彼女いるって答えたらどうするの!?
軽く酔ってきてるし、ある意味振られることになるから耐えられなくて泣いちゃうかもしんないのにッ…!!
やっちゃったぁ…と顔には出さずに後悔していると、三ツ谷くんのジョッキの氷がカラン、と音を立てて崩れた。
「いねぇよ」
「…え?」
「まあ、卒業してから一人もいなかったわけじゃねぇけど。ここ一年くらいいねぇかな」
「……う、そだぁ」
ホッ、と胸をなでおろして…そこでその話を終わればよかったのに。
私の口は止まってくれない。
「でも、…あのーほら、“そういう相手”とかはいるでしょ?恋人いなくても、男女関係なくけっこう…あるって聞くし」
「そういう相手、って?」
「え、…せ、セフレ、とか…」
誰か私を殴ってくれませんか。
聞いといて自分で悲しくなって、テーブルの下で指遊びをする。
「…っはは、好きでもない女抱く趣味はねぇな、オレは」
トクン、と聞こえた、自分の心臓の鼓動。
ゆっくり俯かせていた顔を上げれば、真剣な顔をして、でも口角が上がっている三ツ谷くんと目が合った。