第4章 じゃあ、オレのになって《三ツ谷隆》●
「せっかく他の子より仲良かったんだからさぁ、挨拶しに行っても変に思われないって、ぜったい大丈夫!」
「ええ〜…」
当時、挨拶をしたり、席が離れているのに話しかけに行ったり、彼が話しかけに来たりしていたせいか、「お前らもう付き合えよー」と毎日のように周りにからかわれていた。
その度に、ドクンと心臓を跳ねさせながら「やめてよー」と何でもない顔で笑って流していたけど……今になって思い出してみると、青春してたなぁ、なんて。
「…いいんだよ、もう。大人になっちゃったし、あの頃とは違うんだもん」
「またそんなこと言って…高校卒業してから付き合った彼氏に『いっつも誰のこと考えてんの?』って言われて振られたのは誰だっけ〜?」
「うっ…」
訝しげな瞳で見つめられ、思わず目をそらす。
確かに私は、高校を卒業してからそれなりに恋愛してきたけど…今まで付き合った二人の元彼に、友人が言った通りのことを言われて振られているのだ。
別に…ボーッとすることが多いだけだもん…。とモゴモゴと口先だけで言って口に運んだグラスを傾けながら、ちらりと三ツ谷くんの方に目が行って。
楽しそうだなぁ…なんて、ほんの数秒見つめていただけだったのに。
バチッ!と、幻聴が聞こえるくらい不意に、前触れもなく、がっつり目が合った。
思わず口に含んだお酒を吹き出しそうになる。
「やだぁ、三ツ谷くんこっち見てんじゃん…!」
「ゴホッ、ゲホッ…も、やめ、」
「あ、え?…こっち来るよ」
「はっ?」
目を見開いて固まる友人の視線を辿れば、今さっき目が合った三ツ谷くんが、楽しそうに会話していた同級生に手を振りながらこっちに向かって歩いてきている。
ブルーグレーのシャツの袖を七分まで折り、黒のスラックスを他の誰より履きこなしている三ツ谷くん。
胸ポケットに引っかけている黒縁のメガネと、サテン生地の濃い色のネクタイが、彼を色っぽく際立たせていて…
え、まって、かっこいい。
…じゃなくて!!
近づいてきてるってばッッ!!!
「よっ、蕪谷」
「あ、っみ、三ツ谷、くん…」
緊張してるのは私だけなんだろうか。
何食わぬ顔で片手を軽く上げて、三ツ谷くんは私の目の前で立ち止まった。
高校時代の頃より、大人びた三ツ谷くん。
でも、笑顔は少しも変わらなくて、眩しい。