第4章 じゃあ、オレのになって《三ツ谷隆》●
「蛍、今彼氏いないんでしょ?三ツ谷くんのとこ行っちゃいなよ!」
そう言って私の肩を掴んで揺さぶるのは、中学の時からの友人。
クラスは違ったけど高校も一緒で、家も近かったから登下校を共にしていた仲良しの彼女は、数十メートル先にいる一人の男性をちらちら見ながら、なんとか私を説得しようと力んでいる。
「いや、向こうは彼女いるかもだし…急に話しかけても変じゃない?」
そんな友人と同様、高校時代の同級生と楽しそうに会話している彼を見つめる私は、スパークリングワインが注がれたグラスを片手に、遠慮に遠慮を重ねてその場から動けずにいた。
「そんなの気にしてたら取られちゃうって!」
今日は、成人式以来…5年ぶりに顔を合わせる同学年たちの集まり。
いわゆる、同窓会。
同学年全員が参加しているわけじゃないけど、珍しく8割が参加している今日の同窓会は盛大のため、会場はホテルのワンフロアを貸し切って開催している。
中には高校を卒業してから一度も見ていない人もちらほら。
まあ、別に、同学年全員の顔と名前を覚えているわけじゃないけど……比較的、男女平等で友達がいた私にとって、最も印象に残っている一人の男の子。
三ツ谷隆くん。
一学年だけでも300人は超える中で、奇跡的に3年間同じクラスだった人。
席が隣になったことも2、3回あって、3年間同じクラスともなれば毎朝あいさつも交わすようになるし、ちょっとしたことの相談とかもしたり、されたりして。
見た目はキツそうで絡みにくそうなのに、話してみると見た目とは全くの正反対な性格をしていた三ツ谷くん。
「未だに三ツ谷くん狙ってる子いっぱいいるんだから!」
「でもさぁ…」
「〜もうッ!そうやって曖昧にして!好きなんでしょ?高校の時からずっと!」
ドンピシャで指摘されて、思わずテーブルにグラスを置く。
目を閉じ、額に手を当ててため息を吐けば、勝手に蘇ってくる高校時代の記憶。
おはよ。
あ、おはよ〜。
なぁこれわかる?
…ぅ、ごめんわかんない。
あれどうすっかな…。
まだ決まんない?
今日のお弁当なに?
妹たちの残りモン。
バイバイ。
おー、また明日。
気づけば、三ツ谷くんを目で追っていたあの頃。
初恋ではないけれど、私は確かに、彼…三ツ谷隆くんに恋をしていた。