第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●
〜おまけ〜
出会ったのは、高校2年の春。
東京卍會、初代総長の佐野万次郎、通称“無敵のマイキー”。
まだアタシより二つ年下で、なのにバイクを乗りこなしてチームを率いて街を走る彼を初めて見かけた時、心臓が大きく跳ねた。
いわゆる、一目惚れというやつ。
よく武蔵神社で集会が行われるらしい、という噂を聞いて、アタシは駆けつけた。
見た目はギャルでも意外と小心者のアタシは、木陰に隠れて佐野くんを探した。
一目惚れした人の顔を忘れるはずもなく、すぐに見つけることができた……なのに。
佐野くんが運転するバイクの後ろ。
乗っていたのは、東京卍會の特服を着たメンバーじゃなくて、セーラー服のスカートが風に揺れる、一人の女。
噂の端で聞いた妹か?と思ったけど、その女を心底愛おしそうに見つめながら触れる佐野くんを見て、目の前が真っ暗になった。
何で、お前みたいな取り柄のなさそうな女が佐野くんのそばにいるの。
邪魔だなぁ。
消しちゃおっかなぁ。
思い立ったら即行動。
同じ中学と、他校の佐野くんファンを探し集めて、ファンクラブを創設した。
佐野くんのそばに女がいると伝え、みんなを奮い立たせて、着ていたセーラー服から学校を特定して…近づいた。
名前は蕪谷蛍。
中2で、佐野くんとは1年前から交際している。
仲間で囲みこんで聞き出し、ぶん殴ってやろうかと思ったけど、そんなことでアタシの気持ちは晴れない。
だから、女にマイキーと別れるように言った。
「好きな人ができたと言って別れろ」
「連絡先を消して着信拒否しろ」
「別れたら二度と佐野くんに近づくな」
「約束を破ったら不良の友人に佐野くんの妹を襲わせる」
最後の言葉に酷く怯えた女は、目の前で佐野くんに電話をして別れを告げ、アタシが連絡先を消して着信拒否の設定もした。
別れたら、彼は自分を見てくれると思った。
だから別れさせて、ファンクラブの幹部勢で東卍に近づいた。
…なのに彼は変わらず、アタシを見ずに女を想ってばかり。
1週間経っても変化がないから、その愚痴を不良の友人に話したら、「ならそのマイキーの元カノ、拉致ってやろうか?」と笑い混じりで提案してきて。
「あはは、面白いねそれ」と冗談半分で笑い返した。
それが現実になるとは、思ってもみなかった。