第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●
「マイキーにバレて居場所聞かれてもぜってー答えるなよ」
「少しでも時間稼げ。自分がそばにいれるよう好きに交渉しろ」
武蔵神社へ行く直前、友人からそんな電話がかかってきて。
背筋が凍りついたと同時に、心臓がウキウキと嬉しそうに跳ねた。
あの女が襲われて、友人たちに汚されたら。
きっと佐野くんは呆れて、気持ち悪がって、あの女のことなんか忘れるはず。
…でも、それは大きな間違いだった。
「言え。蛍はどこだ」
「もし蛍に何かあったら躊躇なくオマエらを殺す」
「オマエ、死にてぇの?」
眼光だけで人を殺してしまいそうな佐野くんの目は、他でもないアタシに向けられて。
待ち望んでいた佐野くんの視線。
でも、こんな形で叶うなんて、考えが甘いアタシは思いもしなかった。
どうして。
何でアタシじゃなくてあんな女なの。
あの女の元へ行こうとする佐野くんに腹の底から叫び、間接的にだけどアタシの想いを伝えた。
…けど。
「…お前なんかに、蛍の良さはわかんねーよ」
勝てない、と思った。
佐野くんの、声を荒らげることもせずそう告げた言葉と。
今はここにいない、あの女を想う切なげな瞳。
初めから、アタシが入る隙なんて微塵もなかったんだ、って。
あの女を脅した内容を聞いて激怒した、佐野くんの妹に頬を打たれた。
初めて人に打たれたけど、かなり痛かった。
佐野くんのバイクの後ろに乗って帰ってきた目障りな女が、頬を腫らしてるのにどこか幸せそうな顔で佐野くんと手を繋いで近づいてきて。
それを目にした瞬間。
打たれた頬の痛みより、悔しさに胸が酷く締めつけられる痛みで、涙が止まらなかった。
アタシだって、佐野くんが好きなのになぁ。
〜 了 〜