第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●
「ま、んじろ…?」
「っ、はぁ、…わかった、遠慮しねぇ」
「え…?」
「いいんだな?」
「っ…ぅ、ん、万次郎だから、いい…」
「ん。じゃあベッドいこ」
万次郎の、余裕のなさそうな提案に頷く前に、軽々と持ち上げられて、驚く間もなくベッドに優しく降ろされる。
逃げるはずがないのに、万次郎はまるで私が逃げてしまわないようどこか焦った様子で、上から覆いかぶさってきた。
「蛍」
「ん…?」
「もしほんとにダメそうだったら、オレのこと殴って」
「…えっ?」
そう言った万次郎は、私のこめかみにキスをして…それが始まりの合図かのように、耳、首、鎖骨、と移動しながらキスを落としていく。
快感とは別の意味で少しだけ指先が震えたから、気休めにと思って私の顔の横にある万次郎の手に指を絡ませた。
万次郎は何も言わないけど、代わりに指を絡み返してギュッと手を握ってくれたから、…どうして万次郎はこんなにも優しいんだろう、と思い涙がこぼれる。
「脱がしていい…?」
「っ、うん…」
私の目に滲んだ涙をちゅ、と吸いながら、片手でパジャマのボタンを外していく。
繋いでいた手を離して、ボタンを外し終わったパジャマをそっと脱がせた万次郎は、上半身が下着だけの姿になった私の胸元を見て固まった。
「…万次郎…?」
「……これ、あの男がつけたのか」
「え?」
万次郎の目線の先、服では隠れるけど下着だけでは隠れない、心臓のあたり。
見てみると、花びらのような形で一箇所だけ鬱血している、…万次郎にしかつけられたことのない、キスマーク。
吸いつかれた記憶がないから、たぶん、私が気絶した後につけられたのかもしれない。
お風呂に入った時、どうして気が付かなかったんだろう。
…そういえば、エマが服を脱いだ私を見て一瞬だけ悲しい顔をしたっけ…。
「やっぱアイツ殺しとくんだった」
「へ!?」
キスマークを見つめながら一瞬だけ殺気をだした万次郎。
でも怯える間もなく、万次郎はそのキスマークに唇を当てて上書きするように強く吸い付いた。
「痛…ッ」
「あ、ごめん強すぎた」
イラッときちゃってさ…と言って頬を膨らます万次郎が、なんだか可愛くて。
ふふ、と笑いながら「いっぱいつけていいよ…?」と言って……何も考えてなかった自分を殴りたい。