第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●
「っ、!? や…ッ」
両腕で自分を抱きしめた瞬間、脳裏にフラッシュバックした光景。
覆いかぶさってきた男が、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて、頬や首筋にいやらしい手つきで触れてくる、あの光景…たった数時間前のこと。
「わ、アブねッ」
「っう、ぇ、…ヒッ、ゃ、やだ、ぁ…っ」
反射で万次郎の胸を強く押して後ろに倒れそうになるけど、万次郎が慌てて支えてくれた。
でも、その支えてくれた手すら、何故か不快に感じて。
さっきまであんなにも万次郎を求めていたのに、今では拒絶してしまう自分に驚きを隠せない。
「蛍、」
──『蛍チャ〜ン!』
「や、やだ、万次郎、怖い、怖いよ…ッ」
「アイツらはもういねぇから、オレしかいねぇから」
じわじわと視界が涙で滲み、万次郎の顔が歪んでしまってよく見えなくなる。
泣いている、と気づくのが遅れるくらい、頭の中が混乱していた。
「ヒック、ごめ、わかって、る、のにっ…」
「ん、いーよ、オレは平気だから」
…あの時、万次郎が来てくれたおかげで、服を肌蹴させられただけの未遂で終わったけれど。
制服で、スカートだったから、露出していた足を撫でられて、服越しでも胸やお腹をたくさん触られた。
キスされそうになったり、耳や首を舐められたりして…
嫌で、気持ち悪くて、たくさん抵抗した。
ワイシャツのボタンが飛んだ時は、我慢できなくて涙をこぼして暴れた。
その拍子に私の上にいる人の顔を叩いてしまって…激怒したその人に打たれて意識が飛んでしまったけど。
「…まだ痛む?」
「っ、んーん…」
落ち着かせるように、ゆっくりと私と視線を合わせながら、涙が伝う私の頬に触れる万次郎。
頬の腫れはそんなに酷くなかったし、お風呂上がりに冷やしたから、外から見る分には問題はない。
口内の血も止まっている。
でも、真綿を包むように頬に触れる万次郎の優しさが嬉しくて。
…なのに、そんな万次郎に触れられて怯えてしまう、そんな自分が嫌で、嫌でしかたない。
「…オレは大丈夫だから。な?」
──『大丈夫だって〜。心配しなくても誰も来てくんねぇからぁ、諦めてぜ〜んぶ委ねな?』
「〜っ…」
「蛍…?」
「…ま、じろ…」
「ん?」
「…いっぱい、抱いて…ッ」