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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●




「ごめんね…万次郎…っ」



こんなに悲しい思いをさせてしまうくらいなら、最初から離れる選択をしなければ良かったのに。
後悔したって、もう遅い。

…でも、でもね?
こんな風に、また抱きしめてくれるってことは、期待してもいい、って…こと、だよね…?



「ほ、ほんとに、ごめんなさい…」
「……」



ねぇ…
どうして、何も言ってくれないの…?

抱きしめてくれている万次郎の手は、とても温かいはずなのに。

まるで、私自身が氷になってしまうかのように…冷たい、真冬の水につま先から沈んでいくみたいに、体の芯からだんだん冷えていく。



「っまん、じろ…?」
「……」



お願い。
何か言って。

指先が、凍えそうなくらい冷たくなっていく。
力が入らない。
万次郎に抱きしめられているっていう、感覚がない。



「ま、まん、じろ…っ」






──『た、助けて…エマ…ッ』

──『あ〜そっかぁマイキーくんと別れちゃったんだもんなぁ?連絡先持ってないもんなぁ!?』






「っ…ぅ、ごめ、なさい…っ」






──『でも女の子に連絡したって意味なくね?助けに来れねぇだろー』

──『えー別に良いんじゃねー?その、エマ?チャン?が来てくれたらさぁ俺らにとっちゃご褒美だし!』

──『っ…ぅ、ヒック…ま、じろ…まんじろ…た、すけ…ッ』

──『ギャハハハ!泣いちゃったぁ〜よちよち、だいじょぶ〜?』






木霊する、下品な笑い声。
万次郎の部屋にいて、万次郎に抱きしめられているはずなのに、目の前が真っ暗になって、両手で頭を抱える。



「わ、たしっ…ごめ、ごめん、なさっ…」






──『心配すんなって〜。これから楽し〜ことすンだからさ?』

──『い〜っぱい相手してやっから!ホ〜ラ、こっち来いよ』






「嫌、やだっ触らなっ…い、やああッ!たすけて万次郎ッ」

「蛍」
「ッ!?」
「オレはここにいるよ」



ふと、視界が明るくなる。

頭を抱える私の震えた手は、万次郎の温かくて優しい手にふんわりと包み込まれていて。
いつの間にか下を向いていた顔を上げれば、いつも通りの柔らかい表情をした万次郎が、私を見つめていた。

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