第3章 甘えて、いい…?《佐野万次郎》●
あの後、佐野家にお泊まりに来た。
私が万次郎のバブの後ろに乗って、エマはドラケンくんに送ってもらって。
本当は、家に帰るつもりだったんだけど…万次郎が、今日は離れたくないって拗ねて、私のことを離さないから。
お母さんに連絡して、ちょうど明日は学校はお休みだし、今日はお泊まり。
ご飯を食べて、「オレが一緒に入りたい!」と駄々をこねる万次郎を振り切ってエマとお風呂に入ってから、少し腫れた頬を冷やした。
お泊まりは初めてじゃないから、下着は万次郎の部屋に置いてあった物を着て、パジャマはエマの物を借りた。
たくさんお喋りしようとエマの部屋に行こうとしたけど、万次郎に抱き上げられて…強制的に万次郎の部屋へ移動することに。
それからというもの……万次郎はソファーに座ると私を膝の上に乗せ、正面から抱きしめたまま動かなくなってしまった。
ずっと無言で、私の肩に顔を埋めて呼吸を繰り返している。
「…助けに来てくれてありがとう、万次郎」
「……」
「…嬉しかったよ。目が覚めたとき、万次郎がいてくれて」
「……」
「私、万次郎に酷いことたくさん言ったはずなのに、…どうして来てくれたの…?」
「……」
何を言っても反応してくれないから、万次郎を抱きしめている手を片方だけ持ち上げて、部屋の明かりでキラキラと光って眩しい万次郎の髪の毛を梳いて、指に絡めて、キスをして、好きなようにいじる。
「…あのね、万次郎。…聞いてくれる…?」
ほんとはね。
好きじゃない、なんて嘘。
好きな人ができた、なんて嘘。
もう会いたくない、なんて嘘。
声も聞きたくない、連絡もしないで、なんて…嘘。
ぜんぶ、嘘なんだよ。
つきたくもない嘘をつかなきゃ、エマに危険が及ぶかと思って、怖かったの。
私だけが苦しくて辛い思いをすれば、…我慢すれば、万次郎にもエマにも、きっと危険なことはないと思ったの。
けど、そんなことを考えると胸が苦しくて、すごく辛くて…。
まるで、私だけが万次郎を愛してて、私だけがエマを大切に思ってるみたいだ、って思っちゃって。
だからね?
私の選択で、万次郎をひどく傷つけて、エマに寂しい思いをさせてしまったんだって知って、…すごく悲しいことなのに、心から安心しちゃったの。
だって、それなら、私ちゃんと必要とされてたんだ、ってことに繋がるでしょう?