第1章 オレにはしてくんねーの?《松野千冬》
夏休みの中盤。
街に出かけることもあるけど、今日はお家デートってやつで。
午後に蛍を迎えに行って、コンビニで飲み物やアイスを買ってからオレの家にきた。
暑い暑いと言いながら部屋のクーラーの電源を入れ、コンビニの袋からすぐアイスを取り出して二人でひと口ずつ交換しながら食べる。
食べ終わったと思ったら、オレのベッドで眠っていたペケJが起きてきて…躊躇うことなく蛍の膝に擦り寄った。
「ペケ〜!きゃああ可愛い!もふもふ〜!」
初めてオレの家に来た時から、蛍にめちゃくちゃ懐いているペケJ。
ペケJは人見知りが強い方なのに、蛍には最初からデレデレして、いつも遊びに来ると蛍から離れないことが多い。
「ペケそろそろおやつの時間だけど、あげ…」
「あげる!!」
「即答かよ…」
「ペケ美味しい〜?ふふ、そっかぁ」
蛍も蛍で、ペケに溺愛している。
猫吸いはもちろん、頭や頬や鼻にキスをするのは日常茶飯事。
抱いたまま昼寝することもあるし、オレと話をしている時もずっと撫で続けている、生粋の猫好き。
ペケと戯れている蛍ももちろん可愛いけど、…なんかちょっと、やるせない、というか何というか。
「ペケ、ちゅ〜っ」
「……」
ペケだけじゃなく、たまにはオレのことも構ってほしい、っつーか…。
「なぁ蛍」
「なに〜?」
「蛍ってほんと猫好きだよな」
「うん!大好きっ」
「じゃあオレのことは?」
「……っえ」
「オレは蛍のこと大好きだよ。もちろんペケもだけど、違う意味で蛍のこと好きで好きでたまんねぇ」
「っあ、う…」
胡座の上に片ひじで頬杖をついて真顔で見つめれば、オレと目を合わせた蛍の顔はみるみる真っ赤に染まっていく。
抱き上げていたペケを床におろし、真っ赤な顔で視線をさ迷わせて俯く蛍。
もじもじと両手の指先で遊んでから、小さな声で「私も千冬好き、大好き…」と呟いて上目遣いでオレを見た。
「ん。おいで、蛍」
可愛くて、可愛すぎて、抱きしめたくなって。
でもオレからは行かずに、両腕を広げて蛍を呼んだ。