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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第1章 オレにはしてくんねーの?《松野千冬》




高校1年も終わりに近づく1月。
人生初の彼女ができた。


相手は、二つ隣のクラスの子。
学年一可愛い…なんて噂されるほどじゃないけど、それなりに可愛いと噂されて、それなりに男子に人気のある、少しほわほわとした雰囲気が印象の蕪谷蛍。

出会いは、別に語れるようなことじゃないけど、偶然一緒になった委員会での居残り。6月のこと。
学年ごとに配る資料のホッチキスどめで、十数人いる中からじゃんけんで担当を決め、たまたま同じ担当になったのが、蕪谷蛍だった。

特にコレといった会話をしたわけじゃないけど、彼女も猫が好きで、でもペットを飼えないマンションで…オレも猫好きで、家で飼ってる、なんて話をしたくらい。
オレの話に「いいな〜」と言って羨ましそうに眉を寄せてクスクス笑う彼女に心を奪われたのは、その時だった。


たぶん、先に惚れたのはオレなんだろうなって思ってた。
でも違った。


彼女は、委員会で出会う前から…中学に通ってた頃からオレのことを知っていたらしく。
同じ高校に通っていると知って、入学当初からずっと目で追っていたらしい。

でもクラスは違うし、接点もないし、委員会が一緒でもクラスが違うから隣の席に座れるわけじゃない。
いきなり話しかけるのも失礼かな……と考えていた矢先の、ホッチキスどめというささやかな行事。
心臓の音がオレに聞こえてしまわないか、ドキドキと同時にヒヤヒヤしていたらしい。


気になってた子と付き合うことになった、と元東卍の同級生たちに伝えれば、それはもう冷やかされ、悔しがられ、そして祝福されて。

相棒のタケミっちには彼女への気持ちを密かに話していたから、顔をぐっちゃぐちゃにして泣いて喜んでくれた。

話を聞けば、タケミっちの彼女である橘日向と蕪谷蛍は、中学からの友達らしく。
「ダブルデートできるね!」と満面の笑みで彼女と橘日向に言われた時は、オレとタケミっちは顔に熱を集めてその場にしゃがみ込んだ。

破壊力という名の可愛さが絶大だった。


2年生に昇級してもクラスは一緒にはならなかったけど、昼休みはほぼ毎日一緒にいるし、放課後も一緒に帰っている。
手を繋いで、ハグをして、キスもして。…でもその先にはなかなか進めなくて。

いつの間にか、付き合って半年が過ぎていた。


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