第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
「…え、なん、で…ッ」
「エマから連絡きた」
助けに来たよ。と微笑んで言えば、蛍の瞳が潤みだす。
でも目尻をそっと撫でると、はっとしたように目をそらされた。
「っ…だめ、なの、万次郎に近づいちゃ…」
オレの手をやんわりと振り払って顔を背ける蛍の、両頬を包みこんでずいっと顔を近づけた。
息を飲む蛍を落ち着かせるように、額に軽くキスを落とす。
「ファンクラブの奴らのこと?」
「ぇ…」
「もう無いよ、ファンクラブなんて。オレが解散させた」
「……〜っ」
オレの言葉に、目を大きく見開いて唇をわなわなと震わせる蛍。
同時に、潤んでいた瞳から涙が溢れ落ちた。
くしゃっと顔を歪め、喉をひくつかせながらオレの手に縋りつく蛍が愛しくて、愛しくて。
この先一生、蛍が涙を見せるのはオレだけならいいのに…と思う。
「ヒクッ、ぁ、あの女の、人たちが」
「うん」
「ま、万次郎と別れなかったら、グスッ、エマを襲う、って…」
「は?」
エマを襲う。
蛍の言葉に、目の前が一瞬グラついた。
オレと別れなかったらエマを襲う、なんて。
オレのことも、…小学から仲が良かったらしいエマのことも大好きな蛍にとって、その脅しはどれだけ辛い選択だったんだろう。
腸が煮えくり返りそうだ。
やっぱあの女、殺しとくべきだったか…?
「…気づくの遅くなってごめんな」
「ちがっ…万次郎は悪くない、全部私が悪いの、脅しが怖くて逃げちゃった私がっ」
「あ゙ーもう!お前一人で解決しようとしてんじゃねーよバカッ」
「ぇ、ば、バカって言った…っ」
「オレ、甘えろっていつも言ってんじゃん」
「っ…」
甘え下手で、頼れって言ってンのにいつまで経っても頼ってくれない。
甘えろよ。オレに甘えて、甘えまくって、オレを困らせてみろよ。
それがオレにとって蛍からの愛情に感じるし、何よりも幸せなんだから。
ボロボロと涙をこぼす蛍を抱きかかえて、転がっている男達が目に入らないように、オレの特服を羽織らせてバブに乗せた。
オレも乗ると、ギュッと腰に抱きついて背中に顔を埋めてくる。
…落ち着いたら抱き潰してやる、と決意して、安全運転で武蔵神社に向かった。