第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
「最低!ほんっと最低ッ!」
武蔵神社についた瞬間に聞こえてきたのは、エマの悲痛な叫び声と、小気味よいほど夜空に響いたビンタの音だった。
思わず蛍と顔を見合わせる。
二人でバブを降りて、手を繋ぎながら騒ぎの中心へ向かった。
すると見えてきたのは、ケンチンに背後から抱えるように抑えられている、激怒した姿のエマで。
こんなに怒ったエマを見るのは初めてで、同じことを思ったらしい蛍と足を止めた。
「蛍がっ…マイキーが!どれだけ辛くて悲しい思いをしたかあんたたちにわかんの!?」
「落ち着け、エマ!」
「そんな卑怯な手つかって簡単に人を傷つけるあんたたちなんかがマイキーにつり合うわけないでしょッ!?」
地面に座り込み、東卍メンバーに囲まれて見下されている女たちは、めそめそと惨めに泣いている。
ケンチンだけじゃなく、落ち着くように声をかけているのは三ツ谷と千冬。
その横に、髪をかきあげながらどうしようか悩んでいる様子の場地がいた。
「…万次郎、」
「…ん、行っていいよ」
不安そうにオレを見上げる蛍の頭にキスをすれば、蛍は頷いてエマの所へ走っていく。
「エマ〜ッ!」
「蛍になんかあっ……え、蛍?」
ケンチンの腕を振り払って勢いよく振り返ったエマは、走る蛍を抱きとめた。
ほっぺ怪我してるじゃん!と涙を流して蛍の頬を包みこむエマと、同じく泣きながら笑みをこぼす蛍を見て、本当に仲がいいんだなと思う。
そういえば蛍と初めて会った時、友達に佐野って名字の子がいるって言ってたなぁ。あれエマだったんだ、なんて今更思い出した。
「マイキー」
「…ケンチン」
「間に合ってよかったな」
「うん」
歩み寄ってきたケンチンと、コツンと軽く拳をぶつけ合った。
まあ半殺しにしたけどな、と言って笑えば、殺さなかったのはエラい、と笑って返されるから。
ほんとは、場地から電話が来なかったら殺してた、なんて。
口には出さないでおいた。
第3章へ続く。