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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第16章 今の、ファーストキス?《場地圭介》




そんな場地の緊張には、蛍とエマ以外の全員が気づいていた。

場地の想い人を知らないのは蛍本人とエマだけであり、花垣武道の彼女である橘日向すらも場地の想い人が蛍であることを知っている。
逆に、蛍の想い人が場地であることを知っているのは、マイキーとエマだけ。

場地の、蛍へ向ける想いを知らないエマと。
蛍の、場地へ向ける想いを知らない連中は、両者ともに手に汗握る思いでそれを見守っていた。
が、そろそろいい加減…


((も、もどかしい…!!!))


勉強会が始まって、2時間弱。
実のところ、蛍と場地は来宅時の「いらっしゃい」「お邪魔します」から一度も言葉を交わしていないのだ。

いい加減にしてくれ、と。なにか、ミリ単位でもいいから進展はないものか、という思いは皆一緒だった。

平然を装って会話をしたりお菓子を食べたりしている彼らだが、内心は冷や汗ダラダラであった。
つまり、気が散りすぎて宿題どころではないのである。



「…ね、ネェ〜、これわかる?」
「なぁに?」



手に持ったシャーペンを落としそうになりながらも、蛍は隣のテーブルから身を乗り出してくるエマに身を寄せた。

その時だった。



「!」
「っと、わりぃ」
「ぁ、ううん、平気っ」



場地が何気なく動かした足が、蛍に軽く当たって会話が生まれた。
きたか!?と皆が同時に生唾を飲み込んだが…



「……」
「……」



即終了。

ちりん、と風鈴の音だけが、この空気を笑うように響いた。



「…え、と、何だっけ、エマ」
「え!?あ、や、ごめん、わかるとこだったぁ!あはっ、はは…あ、でもここわかんないかもぉ〜」



完全にエマの方を向いてしまった蛍。
場地もシャーペンを持ち直して、ドリルに視線を戻している。

皆は内心で深く、大きなため息を吐き出した。もちろん顔には出していない。
とんでもないフライングで一気に体力が持っていかれ、麦茶で喉を潤す者もいるが、しっかり喉が潤ったかどうかは定かではない。

麦茶が入っている、汗をかいたピッチャー。
ボーッとする思考の中、その水滴を見つめていた三ツ谷は「遠慮せず飲みな…」と幻聴を聞いたような気がした。

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