第16章 今の、ファーストキス?《場地圭介》
「うっま…タケミっち食った?」
「まだ、つか千冬食べすぎだし宿題進んでねぇじゃんッ!」
「ヒナこれ食べた?ネェと作ったの〜」
「ありがとう!食べるっ」
「三ツ谷ぁ〜ココわかんねぇ」
「あーさっきの方程式のやつ使っ…いやそれ方程式じゃねぇ、っだから違ぇつってんだろ一虎オイ」
「ケンチン、そっちのカップケーキちょーだい」
「オマエさっきも食ってただろーが、みんなの分無くなんぞ」
ついに始まった、何とも賑やかな勉強会。
という名の駄べりながら宿題を終わらせようの会。
2年生組が集っているテーブルには花垣武道、松野千冬、橘日向、そして佐野エマの四人がまとまっている。
その隣の3年生組が集うテーブルには、奥から三ツ谷隆、龍宮寺堅、佐野万次郎。反対側の奥から羽宮一虎、場地圭介、佐野蛍と並んで座っている。
東京卍會の創設メンバーが揃いそうだった今回、パーちんこと林田春樹は欠席している。来る予定ではあったが、愛犬のポチが急に体調を崩してしまったとマイキーに連絡が届いたのだ。
ちなみに席順はマイキーとエマが蛍のために、勉強会を開催しようと決定したあの夜に決めた通りになっている。
エマの本心はドラケンの隣に座りたかったが、「宿題の内容とかレベルが違ェんだから隣に座っても意味ねぇだろ」という正論をイザナに言われてしまい、唇を尖らせながらも渋々諦めたのだ。
(でもやっぱり隣に座りたかった…)とエマは未だに諦めなければよかったと後悔している。
そして今日の主役である二人、蛍と場地。
隣同士で座っているものの、蛍は何となく緊張してしまって場地に話しかけられずにいる。
弟妹たちが計画してくれたせっかくの機会なのに、肝心な一歩を踏み出せなくて、二人に申し訳なくなって…それの繰り返しで蛍は勉強どころではない。
マイキーとエマはそれに気づいていた。だからこそ何か、例え小さくても良いからきっかけを作ってあげたいと思っている…その一方。
「…場地ィ、シャーペン折れんぞ」
「…おー」
実は場地もガチガチに緊張していた。
会える機会が少なすぎる自分の想い人がすぐ隣にいるのに。会いたいと思っていた彼女にやっと会えたのに。久しぶりすぎて会話もままならくて、今にもシャーペンを折ってしまいそうになっているのだ。