第16章 今の、ファーストキス?《場地圭介》
──当日、集合時間の数時間前。
「ニィ〜髪結って〜!」
「は?自分でできるだろ」
「なんか今日ぜんっぜん上手くできないの!」
「蛍にやってもらえよ」
「ネェは忙しいの!この後もまだ準備あるし!お願いニィ〜!!」
「何でオレが…」
「ニィ、髪結うの上手なんだもん!前やってくれたやつまたやって欲しいの!」
「…ったく、ほらアッチ向け」
「やった!ありがとう!」
そんな元黒川家の兄妹の会話が洗面所からひびく中、蛍は麦茶を多めに用意していた。
来客が大人数であるため、冷蔵庫内に常備している麦茶では足りない。飲み物を持ってくる人もいるかもしれないが、用意するに超したことはないのだ。
昨夜、エマと二人で作った簡単なカップケーキも皿に盛り付けて。これは後で、真一郎とマイキーが長いテーブルを用意してくれているであろう和室へ運ぶので、今はダイニングテーブルに置いておく。
そして、棒状に伸ばしてラップに包んであるクッキーの生地を切って、それをオーブンで焼く作業がまだ残っている。昨夜から冷蔵庫で寝かせていたそれを取り出し、包丁とまな板と一緒にテーブルに並べた。
集合時間までに一人で終わらせるには手が足りないため、エマの手が必要になる。
万が一集合時間を過ぎてしまったとしても、お偉いさんが来るわけでもないから急ぐ必要もないのだが、時間はきっちり守りたい蛍であった。
「エマー?」
「あ、ネェが呼んでるっ」
「今終わる」
「すぐ行くー!」
「はぁい」
まるでパーティーを行うための準備をしているような気分になり、蛍は鼻歌を響かせはじめた。
想い人である場地にも会えるし、半分ほど残っている宿題も友人たちと進められる。おしゃべりに夢中にならないように注意しなければならないほど仲のいい連中が揃うものだから、頬も勝手に緩んでしまう。
「ネェおまたせ!」
「わ、エマすっごく可愛い〜!」
「えへへ、ニィがやってくれたの!ネェもお揃いにしよ?ウチあとで結ってあげる!」
一方、和室では。
「なぁあ〜シンイチロー、暑っつい、溶ける」
「オマエ全然動いてねぇだろ…オレの方が汗だくだっての」
「扇風機ついてる?」
「足りねぇか?なら道場休みだし向こうの…」
「腹減ったぁ」
「オイ」