第16章 今の、ファーストキス?《場地圭介》
佐野家の誰とも血の繋がらない兄、イザナ。
最初はよそよそしい態度で皆と接していたイザナだが、時が経つにつれ佐野家に馴染み、今では本当の兄妹のように弟妹たちを可愛がっている。
…それを素直に表現するかどうかは、別として。
「あのね?さっきお兄ちゃんと、イザナお兄ちゃんが言ってたように、告白…早めにした方がいいのかなぁって…」
俯き気味で告げられた蛍の言葉に、イザナはわずかに目を見開く。
まさか自分の意見を覚えているとは思わなかったのだ。
「…別に、絶対そうしろって意味で言ったんじゃねぇ」
蛍はエマよりもだいぶお淑やかでデリケートな面があるため、イザナは(当たって砕けろはマズかったか…?)と少し反省した。
イザナは別に傷つけるつもりで言ったわけではないし、なにより何も考えず口にしてしまった自分が悪い。けど謝るのも何か違う気がする、と思ったイザナは蛍の頭を無意識に撫でた。
「!」
「フラれっぱなしの真一郎はアレ以外の方法は言えなかっただろうけど」
「うぁ、イザナひでぇ…」
「告白は…まァ、タイミングも大事だろ」
「…やっぱり、タイミングは大事だよねぇ」
「ン。……バジ、のことはオレよく知らねぇけどサ、」
血は繋がっていないけれど、今のイザナにとって蛍はエマと同じ可愛い妹である。
場地と蛍がこの先どう進展していくかはわからないが、恋に疎い訳ではないらしい蛍が選んだ男ならば。
「お前が自分で選んだオトコなら、…頑張れば振り向いてくれるんじゃねーの」
「!うんっ」
「…風呂いってくる」
「いってらっしゃい!」
不器用だけれど、妹に幸せになって笑っていてほしいことに変わりないから。
不器用なりに言葉を残してダイニングルームを去っていくイザナの後ろ姿を、真一郎は微笑ましげに笑みを浮かべて眺めた。
(オレの弟妹たちが世界一可愛い)
数日後。
参加者全員の予定を合わせて、ついに迎えた勉強会当日。
それぞれ終わっていない宿題と好きなお菓子を持ち寄って、佐野家の広い一室に集った。
が。
まさかあんな事になろうとは、誰も、露ほども予想していなかったのだ。