第16章 今の、ファーストキス?《場地圭介》
「兄ちゃん御祝儀いっっっぱい包むからな…!!」
「…えと、ありがとう…?」
勝手に未来まで全力疾走してしまった真一郎だが、蛍にとっては自分の恋路を思って涙を流してくれる、とっても優しいお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんのことが、蛍は大好きである。
「もぉ〜泣かないでよ真兄!今からネェといっぱいお話するんだから!」
今まで恋愛に関する話題を自然と避けてきた蛍から、根掘り葉掘り聞くために。そして、エマにとって大好きな姉の恋を何とか実らせるために。(自分の恋は今回保留)
真一郎の隣に座った蛍の向かい側に座ったエマは、さて!と顔を綻ばせた。
「真兄、何かアドバイスない?」
「え、オレ?」
「ネェと場地がちょっとでもイイ感じになれるようにウチ、何かしてあげたいの!」
「…ンなこと言われてもなぁ」
カノジョすらいねぇのに参考になるワケ?と、ボソリとエマの隣から聞こえてきた声に真一郎は幸いにも気づくことなく、顎に手を当てて真剣に悩みはじめる。
うーんと唸り声が室内に響いて数秒後、パッと何かいい事が思いついたらしい真一郎は、人好きのする笑みを浮かべた。
「いっそのこと、告っちまえばいいんじゃねぇか?早めに気持ちを伝えるのは大事だぞ?」
「えっ?いや、お兄ちゃんそれはちょっと…」
「ッ、真兄サイテー!そんなこと簡単にできるわけないから聞いてるのに!もう、サイテー!そんなだからいっつもフラれるんだよ!!」
「ぐッ」
微塵も参考にならない長兄のアドバイスに、エマは呆れを通り越して怒りをあらわにしているし、蛍も思わず笑っている。真一郎は再度、テーブルに突っ伏した。
いつもの光景であり微笑ましいことだけれど、今回の件は中途半端に終われない。そう思ったエマは隣に座る佐野家の次男、イザナに目を向けた。
「ニィは?何かない?」
真一郎の部屋から盗んできたバイク雑誌のページをめくるイザナは、エマの問いかけにふと顔を上げる。目の前にいる長兄は突っ伏していたため、斜め前に座っている蛍になんとなく視線を滑らせればバッチリ目が合ってしまったため、咄嗟に何も考えられず、ただ口をついて言葉が出てしまった。
「…当たって砕ければいーだろ」