第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
「…風、スか」
「うん」
これからは、この人を守るのは…場地さんじゃない。
オレなんだ。
泣きそうな時も、泣いちまってる時も、寂しそうな時も、独りにしちゃいけない。
笑ってる時は、例えそばにいるのがオレじゃなくてもいい。
でも蛍さんに影が落ちそうな時は、オレが照らさねぇと。
…四六時中、ずっと離れずにそばにいるのが一番なんだけど。
「それからね?風に乗って『ばーか』って聞こえたんだ」
「っ!」
「『来んな』っていうのも聞こえた。…気がしたの」
蛍さんを、飛び降りようとした蛍さんを屋上に戻したのは、風じゃない。
それは、紛れもない。
疑う余地もない。
「…ねえ千冬」
「っ」
「あたしの気のせいじゃないよね?圭ちゃん…だよね?」
場地さんはもう、いない。
けど場地さんは、今でも蛍さんを見守っている。
見守る位置が変わっただけだ。
「は、い…っ絶対、場地さんスよ!」
これからも、オレは場地さんと二人で、蛍さんを守っていけるんだ。
「ふふっ。だよね!びっくりしちゃったんだ〜、圭ちゃんがすぐそばにいるみたいだったもん」
「いますよ、きっと。蛍さんのことずっと見てると思います」
「……じゃあ、さっきのキスも見られてたのかな?」
「…ッあ゙」
「なんか照れるね!」
「ぅ…全然そういう風に見えないです…」
お願いします、場地さん。
オレのいない時に、蛍さんにもし危険が迫ったら…守ってください。
…でも、オレが蛍さんと二人でいる時は、その…目ェそらしてもらえると嬉しいデス。
「ていうか、せっかく敬語外してくれてたのにまた戻ってる!名前も!さっきは呼び捨てしてくれたじゃん!」
「や、あれはその、無意識っつーか…」
「もう!圭ちゃんに報告に行きたいのに、敬語も名前もそのままなんて、あたし嫌だよ?」
「…へ、報告?」
初めて会ったヒトに一目惚れして。
心から尊敬してる人を失くして。
その人の恋人だと思っていた人と、想いが通じあう。
こんな展開、今まで読んだ少女漫画になかった気がする。
「え?千冬、あたしと付き合ってくれるんじゃないの?」
めっちゃ胸きゅんじゃないスか?場地さんッ!!!
END