第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
〜おまけ〜
10月30日。
今から会えるか?なんて電話がかかって来たのは、そろそろ寝ようかなと思っていた夜10時過ぎ。
厚めのカーディガンを着て、家のすぐ目の前にある公園にいけば、電話してきた相手──…圭ちゃんがいた。
なんの躊躇いもなく近づけば、いつもみたいに「よぉ」とか「こんな時間にわりぃな」とか、そんな挨拶もなしにいきなり正面から抱きしめられた。
突然のことで状況を理解できなかったし、あたしの肩に顔を埋めて、まるであたしの存在を確かめるかのようにキツく力を込める腕に、言い様のない不安が押し寄せる。
「オレに何かあったら、千冬のこと頼む」
「…なに、か、って…何?」
何それ。
まるで、圭ちゃんがいなくなるみたいな言い方じゃん。
本当にわけわかんなくて、気づけば涙がこぼれていた。
“何か”の意味を教えてくれない圭ちゃんに、嫌がらせに零れ続ける涙をジャケットに擦りつける。
…あたしが、汚すからさあ…捨てちゃえばいいのに、東卍のモノじゃないジャケットなんて。
「つかお前、早くアイツに告れっての」
「…TPOってのがあるんですぅ〜」
「ア?何言ってっかわかんねーけどよ、お前ら二人見てるとイライラしてくんだワ」
「そっ、ちこそ意味わかんないし。アプローチ頑張ってるのに千冬が振り向いてくれないだけだもん」
「……はぁ〜〜」
「え、なに、ため息長すぎっ」
突然抱きついてきたくせに、離れる時も突然で。
何となく離れたくないな、と躊躇ったのは、あたしだけ。
「…幸せになれよ」
ぐしゃぐしゃと、お風呂上がりにしっかり手入れした髪を乱されたけど。
…いつもなら、怒るのに。今回は圭ちゃんの顔を見たらなぜか、怒れなかった。
遺影の中で笑う圭ちゃん。
お花に囲まれる縁なんて、ないはずなのに。
今の圭ちゃんの周りには、お花しかない。
あたしがいないとこで、何でこんなことになってるの?
“何か”の意味はこういうことなの?
こうなることをわかってたの?
ねぇ圭ちゃん、教えてよ。
圭ちゃん…。
「け、ちゃんの、ばか…ッ」
最後の温もりが。
あの夜が、恋しい。
〜 了 〜