第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
まっすぐ目を見つめながら呟いて、表情をうかがいながらそっと抱きしめた。
嫌がる素振りがないから、背中に回した腕に少しずつ力を加えていく。
「…あたしも、千冬が好きだよ」
もう一度、告白してくれた蛍さん。
可愛いなって、愛おしいなって、片想いだと思っていた時と比べモンにならないくらい、想いが通じあった今、幸せで。いい意味で胸が苦しい。
場地さんは…
蛍さんの気持ちを知っていたんだろうか。
「あいつのこと、頼むワ」ってオレに言ったのは、場地さんの女としての蛍さんのことじゃなくて、ちゃんとお互いに想いを伝えて早くくっつけバカ、みたいな…からかい混じりだったのかもしれない。
でも、本物のきょうだいのように仲が良かったなら、場地さんは自分がいなくなったら蛍さんがどうなるか、知っていたはずだから。
そういう意味も含まれていたんだろうな。
間近で感じる蛍さんの温もりと香りに酔いそうになりながらも、いつの間にかオレの背にも回っていた細い腕に気づいて。
心臓がドクドクと忙しないし、顔の熱も引かない。
結局、五限目の授業はサボることになりそうだ。
「……あのね、千冬」
「ん」
「謝らせてほしいの」
「…え、なんスか」
「…いっこだけ、嘘ついた」
嘘?
え、どれだ?
オレを好きだってこと?いやそんなこと今さら言われてもアンタのこと離せねぇけど!?
そう焦る気持ちは、蛍さんの言葉で凍りついた。
「ほんとは……ほんとはね、ここから飛び降りようとしたんだ」
呼吸が止まる。
オレにしがみつくように腕に力を込めてくる蛍さんの声が、震えているような気がして。
体を離して顔を見ようとしたけど、蛍さんはそうさせてくれない。
逆に、オレの肩に顔を埋めてしまった。
「千冬が来る、ほんの少し前かなぁ」
「……ッ…蛍、さん」
「でもね、不思議なの」
震える声。
体もかすかに震えているから、泣くのを我慢しているのか…もう、泣いてしまっているのか。
今のオレには、この人を抱きしめることしかできないけど。
「手すりに足をかけようとしたら、すっごく強い風が吹いて…勢いで押し戻されちゃったの」
場地さんに、託された役目だから。