第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
思い出せば、思い出すほど。
蛍さんのオレに対する気持ちが、手に取るようにあらわになっていく。
引いた熱が急激に顔にあつまって、酷くめまいがした。
蛍さんは…本当に、オレを…?
「…えっと、じゃあ場地さんとは、その…」
一瞬、聞いていいかどうか迷って言葉に詰まるけど、蛍さんは何でもないように笑ってみせた。
でもその笑顔には、見慣れた明るさはなくて。
寂しさが混じる、出会ってから一度も見たことのない笑顔だった。
「圭ちゃんは、あたしの親戚なんだ」
「し、親戚」
「血の関係で言えばかなり離れてるけど、ちゃんと繋がりはあるから」
だらりと腕から力が抜ける。
拘束がとけた蛍さんは、呆然とするオレの前から横にズレて、手すりに背を預けてアスファルトの地面に座り込んだ。
掌でぺちぺちと自分の横を叩くから、無言でオレも座り込む。
昼休みの終わりを告げるチャイムが、風に乗って聞こえた。
「あたしも圭ちゃんも一人っ子だし、家も近かったから小さい頃からよく一緒に遊んでたの。だから圭ちゃんは、弟?…兄、みたいな」
「……あの、キス、とかは…」
「?…あーあれは、なんて言うか…挨拶みたいなものかな。家族とか、親友にする感じの」
日本人の中学生同士が顔にキスするって…いや、どんなだ。
家族でもしねぇぞ。
…しないよな?
「まあ、今まではっきり言わなかったのも悪いけど。信じてくれた?あたしと圭ちゃんの関係」
「…はい」
「あたしはずーっと、千冬のことが好きだったんだからね?」
「……っス」
「んふふっ。千冬は、あたしのことを好きって言ってくれたけど…間違いじゃないよね?あたし、自惚れてもいい?」
膝を抱えながら、熱が引かないオレの顔を覗き込んでくる蛍さん。
赤くなっているだろう顔を見られたくなかったけど、覗き込んできた蛍さんの顔も赤くて。
途端にどうでもよくなった。
場地さんのヨメさんじゃ、ないなら。
この人が欲しい。
「蛍さん」
「なに?」
「キスしていいですか」
「え、わッ」
「させて」
頬から顎に手を滑らせて、引き寄せる。
勢いにまかせて、でも歯は当たらないように唇を重ねて…もう一度。
「蛍が好き」