第15章 悪いと思ってる《松野千冬》
「あたしも、圭ちゃんも!付き合ってるって一回も言ったことないでしょ!?周りの人だって誰も言ってなかったはずだよ!」
「っ、ぁ、」
「あたしを惚れさせたくせに!〜ッも、バカ!なに変な勘違いしてんのっ!」
至近距離にいる蛍さんの、耳まで真っ赤にしながらそう捲し立てる言葉の数々に、オレは思考が停止しかけた。
確かに、思い返してみれば、誰も二人が付き合ってるとは言わなかった。
場地さんと幼なじみであるマイキー君も、場地さんと仲のいい他の東卍メンバーも…。
そう、誰ひとり。
「あたしが恋愛対象として好きなのは千冬だよ!バカ!千冬のばーかッ!」
つまり、全部オレの早とちり。勘違い。
とんでもねぇ話だ。
…つか、あれ、オレいつ蛍さんのこと惚れさせたっけ??
「す、すいません…なんか、あの…え、オレいつ蛍さんのこと…?」
「…初めて会ったとき。圭ちゃんのバイクから降りる時に手を貸してくれたでしょ?」
千冬の優しさに、ノックアウトされちゃったの。
照れながら、でもはっきりと言った蛍さんの言葉は、ストンと俺の中に落ちた。
あの時、ずっと見つめられていたのは、…そういうことだったらしい。
「ずーっとアプローチしてたつもりだったんだけど、気づかなかった?…みたい、だね、ふふっ」
「…し、知らなかっ、た、っス…」
「どうりで…なかなか靡かないな〜って思ってたよ。千冬ってば鈍すぎっ」
「や………ハイ…」
心底楽しそうに笑いながら言われて、ああこれは夢じゃなくて現実なのかって理解した。
本当に、知らなかった。
場地さんの彼女だと、脳に、心に根付いてしまっていたから。
だから少しだけ、蛍さんと出会った日から一緒に過ごした時間を思い出してみる。
──三人で歩くとき。
蛍さんは、オレの隣にわざわざ移動してきていた。場地さんを挟んで歩くのが当たり前だと思っていたのに。
──三人で食事をするとき。
場地さんの前なのに、オレに“あーん”を平気でしてきた。
──場地さんがいるときも、いないときも。
眠くなると場地さんじゃなくて、オレに寄りかかったり膝枕を要求してきていた。
求められるたび、場地さんに殺されないか不安だった記憶がある。
……あれ?