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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第15章 悪いと思ってる《松野千冬》





葬儀の間、蛍さんに触れられるのは場地さんのオフクロさんだけだった。

二人で支え合っている姿はまるで、本当の親子のように見えて。
蛍さんはオフクロさんに、本当の娘のように思われながら場地さんと付き合っていたのかもしれない、と思った。
オフクロさんが頭を撫でたり、背中をさすったりしているその温かくも悲しい雰囲気に、オレが入る隙なんて微塵もなくて。

ただ遠くから、見つめることしかできなかった。








それから数日後。
連絡を取り合うこともなく、しばらく学校にも来ていなかった彼女の姿を今朝、数日ぶりに校門で見かけた。
と言っても、オレは校内の廊下にいたから話しかけに走っていくことはできなくて、ただ見つめていただけ。

昼休みだ。
絶対に昼休みに会いにいこう、と決意をした。

最初にどう声をかけようかなんて全然、未だに自分でもわかっちゃいないし決めてもいないけど、会えば何とかなるって何となく思ったから。

昼休み、決意したとおり3年の教室がならぶ廊下に立ち、場地さんと二人で通い慣れた、蛍さんがいるクラスの教室へと向かった。



「…あの、スンマセン」



机に弁当を広げてざわざわと騒がしい教室の中、入口から見渡しても蛍さんの姿を見つけられなくて。
東卍メンバーと蛍さん以外にはあまり使い慣れない敬語で、蛍さんとよく一緒にいるところを見かける友人らしき女に、話しかけた。



「?…あ、んーっと、松野くん…だっけ?」
「ハイ。あの、蛍さんってどこに…えと、いないんスか」



相手は不良と関わりのない一般人。
睨んでしまわないように気をつけながら、蛍さんの行方を聞くけど。



「蛍なら……ご飯食べてすぐ『散歩に行く』って出ていったよ」



散歩。
それを聞いてすぐ、その人に礼を言ってから踵を返した。

校内で散歩と言えば、思い当たる場所はひとつだけ。
中庭とか、校舎裏とか、誰も行かないような体育館裏とか、散歩できる場所はいろいろあるけど。



「屋上だな」



誰も聞いちゃいないし気に止める奴もいないけど、思わず断言した。

なぜなら屋上は、オレと、蛍さんと…場地さんの三人でいつも一緒に入り浸っていた場所だから。


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