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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第15章 悪いと思ってる《松野千冬》





ちょうど今から一年くらい前の、出会い。
その日から、学校での昼休みや放課後は三人で一緒にいることが多くなった。

オレがいると邪魔なんじゃ…と思わずにいられなかったけど、二人にそう言われることもなかったし、オレとしては蛍さんといる時間も話す機会も増えてラッキーだし。



想うくらいなら、と。
自分でも気づかないうちに、場地さんの前で蛍さんへ熱い視線を送ってしまっていたオレ。
場地さんに、オレの蛍さんへの気持ちを気づかれないようにしていたのに。

迂闊だった。

気づかれていた。
だから場地さんは……あの日、オレにああ言ったんだ。








「あいつのこと、頼むワ」



そう言い残して眠った、10月31日。

ひどく、ひどく心から後悔した。
オレが蛍さんを好きだと、気づかせてしまったこと。
愛する人を置いて旅立ってしまう決断を、場地さんひとりにさせてしまったこと。

…いや、何よりも。
蛍さんに、場地さんの最後の姿を見せられなかったことが、何よりも悔しかった。



オレに蛍さんを託してくれたことは、嬉しかった。

でも、あの人を最後まで守りたかったのはアンタなんじゃないのか、って。
その役目がオレに務まるのかって、愛する人を置いていくんじゃねぇよ、悲しませんなよって…場地さんに怒鳴りたかった気持ちもある。

けど場地さんはそれを選んだ。
オレには想像できないくらいカッケェ覚悟を決めて、蛍さんを託してくれたんだと。


ならば、その期待に応える以外の道は、オレにはない。
受け入れたくない場地さんの死を受け入れて、あの人を、蛍さんを支えなくちゃいけない。

場地さんに、「やるじゃねぇか!」って、いつか褒めてもらえるように。
蛍さんを独りにしないように。
オレがいます、って…そばを離れないようにしねぇと。



──…そう決意した、のに。






「けぃ、ちゃ…ッ、圭ちゃぁん…!!」



場地さんの葬儀で、たくさんの花に囲まれた祭壇の前に座り込んだまま泣き叫ぶ蛍さんに、オレは近づくことができなかった。

一言声をかけるだけでも、と思ったオレが馬鹿だった。
近づくことすらできずに……オレは、なんて役立たずなんだろう。


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