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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第15章 悪いと思ってる《松野千冬》




「つーか、蛍マジで早く降りろ」
「む…圭ちゃん鬼畜」
「は?きち…?」



かったるそうにため息を吐きながら、場地さんはようやくゴキから降りた。
唇を尖らせる蛍さんを急かすけど、よく見ればゴキに乗ったままの蛍さんの足は地面についていない。
乗る時はなんとかなるだろうけど、降りる時は足が地面についていないと車体が傾くし、運転席ではなく後ろなら…なおさら降りづらいはず。



「あ、良かったら手、貸しますよ」
「えっ」
「?……え?」



ただの親切心。
深い意味は…ないわけじゃないけど、本人が言うように降りられないなら、と手を差し伸べた。
すると蛍さんは目を見開いて、差し出されたオレの手を見てからオレをガン見する。

そして動かなくなった。

一目惚れした相手にまっすぐ見つめられるのってすっげぇドキドキするし、蛍さんまつ毛長いな、化粧してんのかなナチュラルすぎてわかんねぇ、肌キレイすぎ、あれ、オレ変な顔してねぇかな髪型崩れてねぇかなって、他人に対しても自分に対しても普段あんまり考えないようなことも脳を埋めつくしてしまう。

…でも場地さんの前、ということもあるから罪悪感もハンパない。

このまま、本当に時が止まっちまえばいいのに……と思うけど、硬直したまま微動だにしなくなった蛍さんに、さすがに心配になる。



「…?あの、」
「はっ…ごめん、ありがとう!千冬優しい〜、圭ちゃんとは大違い!」
「え、いや、場地さんはカッケーっスよ」
「…ぷ、あはは、圭ちゃんの言ったとおりだ!千冬、圭ちゃんのことほんとに好きなんだねっ」



アンタのことも好きになっちゃいましたよ。

…なんてことは口が裂けても言えないから、代わりに唾を飲みこむ。

笑いながら、オレの手をとってなんとかゴキから地面に降り立った蛍さん。
ふわりと背中に羽が生えたようにキレイに着地したけど、勢いでオレの胸に飛びこむ形になって…正直かなり焦った。

めちゃくちゃいい匂いする…

ッじゃねぇよ。
場地さんに悪いじゃねぇかこんなの!



「すッいません、あの、」
「?ふふ、千冬いい匂いするね〜」
「っい、や、…スンマセン」



慌てて自分から離したけど、蛍さんの言葉に心臓がぶっ壊れるかと思った。




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