第14章 たまには家で《灰谷竜胆》
「ん…ッは」
その拍子に唇が離れて肺に酸素を取りこんでいれば、ふ、と笑い声が聞こえきて。
視線を向けた先、少し上がった口の端を舐めながらイヤらしく笑みを浮かべる竜胆くんと目が合った。
「おはよ、蛍」
「お、はよう…?」
「寝込み襲うとはなァ?悪い子」
「ぅ…でも私もビックリしたもん、いきなり舌…」
「自分からしてきたくせに?」
「起きてるとは思わなかったのっ」
至近距離で言い合いながら、竜胆くんの上から退こうとする。
けどそれを許さないと言うように両腕で腰を抱きかかえられ、拘束されてしまった。
負けじとくねくね体を動かしていると突然、竜胆くんがグッと腰を上げた拍子に感じた…太ももへの違和感。
覚えのあるその感触に、少しだけ頬に熱を集めながら竜胆くんの胸に顔をうずめた。
「あの…竜胆くん、当たってる…」
「ん〜?ちげぇ、当ててンの」
まるで誘うように私の耳を指先でくすぐる竜胆くんの甘い声に、ぴくりと体が勝手に反応してしまう。
この先に起こるであろう事を想像して、鼓動が速くなると同時に私までも体の中心に熱が集まりはじめた。
…別に、嫌なわけじゃない。
でもせっかく熱が下がったのに。
私のせいとはいえ、元々今日はデートの予定だったのだからできればお外に行きたい。
なんとか竜胆くんの気分を変えよう!と、勢いよく顔をあげた。
「ね、熱も下がったし、元気だし、デートできるよ?」
「家でゆっくりしようって言ったろ?それに外出歩いて熱ぶり返すよりだったら、このままベッドの中でぶっ倒れた方がいいと思うケド」
「う」
だめだった。
欲に包みこまれた優しい気遣いに勝てるはずがない。
欲を隠すことはしないけど、私の体のことを考えてくれるところは直接言わずに隠してしまう…そんな竜胆くんだから、好きになったんだ。
…でも、だからと言って体力を消耗することに変わりはないわけで。
納得できずに眉を寄せてムッとすれば、竜胆くんは尖った私の唇にキスをしてくる。
一度じゃなくて、私がしたように何度も啄んでくる竜胆くんが楽しそうで、可愛くて。
小さく響く連続的なリップ音に、しょうがないなぁ、と。
いとも簡単に私の気持ちを変えてしまう竜胆くんは、天才だと思う。