第14章 たまには家で《灰谷竜胆》
目が覚めると、カーテンの隙間から眩しい太陽の光が差しこんでいた。
まともに目をひらけないほどの眩しさに、日がのぼり始めた朝ではないなと確信する。
眠る前は、開いていたはずのカーテン。
帰ってきてすぐにソファーで気を失ったし、カーテンを閉めた記憶もない……だからきっと、竜胆くんが閉めてくれたのだろう。
細かな気遣いに、また愛おしくなる。
そういえば、と。
なんだかお腹の辺りが苦しいなと感じて頭だけで振り返れば、気持ちよさそうに眠っている竜胆くんの寝顔があって。
あまりの美しさに一瞬だけ呼吸が止まりそうになった。
私の彼氏が世界一かっこいい…!
胸の内で悶絶しつつも、起きる気配のない竜胆くんを間違えて起こさないよう、ゆっくり慎重に体を起こす。
お腹に巻きついていたらしい竜胆くんの腕は、するりと簡単に解けた。少し寂しいけど、起き上がるためには仕方のないこと。
そして、起きあがった瞬間にわかった。
熱が下がっていると。
倦怠感がないし、視界が揺れる感覚もない。
竜胆くんに貼ってもらった冷えピタの効力はすでに切れていて、冷たさもないから剥いでポイッとゴミ箱に投げ捨てた。
「……竜胆くん」
となりで眠る彼を呼んでみても、静かな寝息が聞こえるだけで返事はない。
頬を撫でてもそれは変わらなかった。
「……、」
ふと、小さな悪魔が私に降りてくる。
風邪じゃないなら、ただの疲労での発熱だったなら、…いいよね?キスしても。
竜胆くんに会って、キスをしたのは一週間前。
えっちなことしたのはもう三週間前。
愛しい人を目の前にして、うずうずと心が疼くのも無理はない。
ゆっくりと、竜胆くんの寝顔に顔を近づける。
指ざわりのいい前髪を寄せても起きないから、小さく笑って竜胆くんの唇にそっと自分の唇をくっつけた。
ふに、と柔らかい感触がして、少しだけ離れて、またくっつける。
もうちょっと、もう一回、と唇を何度も重ねて、試しに竜胆くんの唇を舌先で舐めてみた……直後。
竜胆くんの唇を舐めていた私の舌が、ぢゅっと吸い付かれた。
「っ!」
驚く間もなく、私の口内にぬるりと別の温度が侵入してきて。
あわてて離れようとしたけど、目を薄らとあけた竜胆くんに後頭部を押さえつけられて、それは叶わず…
竜胆くんの上に、そのまま倒れ込んだ。