第2章 その面ぶっ潰してやる《佐野万次郎》
『てか、何でランドセル?今日土曜日だぞ』
『あ、部活と塾の帰りです』
『へー。マジメだな』
『え?…マジメ?…普通ですよ』
『中1でバイク乗ってる奴の前で言う?』
『ち…中学1年生!?え、む、むめんきょ…』
驚いた顔が可愛くて。
会ったばかりの、しかも見た目が不良のオレに見せる色んな表情が面白くて。
もっと、たくさん見たくて。
無意識に伸ばした手は、蛍の頬を包み込んでいて。
反射で前のめりになって驚いている蛍の唇に、オレはキスをしていた。
『!? ち、ちゅーされた…こっ子供できちゃう…っ!?』
『ぶっ、はは!できねーよキスくらいで!』
『え!?』
『オレのファーストキス、蛍にあげちゃった♡』
『ぅ…? う、奪っちゃ、った…?』
『んはは、やっぱおもしれーっ』
ひとしきり笑って、まだ蛍と離れたくなくて。
雨も止んでいたし、オレは蛍をバブの後ろに乗せて家まで送った。
すぐそこ、と言っていた蛍の家は、本当にすぐそこで。
湖の隣にある小さな公園を抜ければ、すぐ目の前にあるマンションの3階が蛍の家だった。
『風邪ひくなよー』
『ええ?私よりマイキーくんが風邪ひきそうですけど…』
玄関まで一緒に行って、扉が閉まるまで手を振りあった。
ひとりで駐車場に下りて、バブに跨って、ふと首をかしげる。
『…何してんだオレ』
初めて会った見知らぬ小学生の女の子にキスをして(蛍のファーストキスを奪った男)家の前まで送って手を振って。
嗚呼、これが恋ってやつか。
子供ながらにそう理解した。
それ以外思い当たらなかったし。
それからは、土日によく蛍の家に押しかけた。
最初は驚いていた蛍のお母さんも、2回目に行った時からはもう快く受け入れてくれて、遊びに行くとジュースやお菓子を出してくれるようになった。
昼寝もして、宿題もして、たまにバブでドライブして。
『オレの女になってよ、蛍』
出会って半年で、蛍はオレの手をとってくれた。
一生離さないって誓った。
安物だけど、指輪も渡した。
いつか本物を渡すって、約束した。
「…ここか」
別れるなんて、冗談でも聞きたくねぇ。