第14章 たまには家で《灰谷竜胆》
「症状は今ンとこ熱だけか?」
「ん…特にない、けど…うつると大変だから、マスク、」
「いや、たぶん風邪じゃねぇよ。残業続きだったんだろ?疲れて熱出ただけだと思うけど」
ベッド脇に腰かけた竜胆くんの言うとおり、ここ最近ずっと残業ばかりで帰宅時間が遅かった。
食事もろくにとらずにベッドに飛び込んでたから、免疫力が落ちたんだろうな。
発熱の原因はそれしか思いつかない。
でももし本当に風邪だったらと思うと不安で、ジト…と竜胆くんを見つめるけど、「いーから寝とけ」とやんわりシーツへ倒された。
「…竜胆くん」
「ん?なーに」
「デート、…ごめんなさい」
「別に気にしてねぇよ。最近会えてなかったのもあるし、たまには家でゆっくりしよーぜ?」
片頬を手のひらで包まれ、その手の親指で目尻を撫でられるとまた視界がにじみだす。
竜胆くんの言葉もそうだけど、撫でてくれる手つきが優しくて。
泣きそう、と思ったときにはもう目尻を熱い涙が伝っていた。
「…ぅ、ふぇぇん…っ」
「あーあー泣くな、熱上がんぞ」
熱のせいで、ひどく情緒不安定になってしまっているらしい。
竜胆くんの行動、言葉のすべてに心を揺さぶられるから、些細なことでも私の涙腺は崩壊してしまう。
「グスッ…竜胆くんって、なんで、そんなに優しいの…?」
「あ?ンなの蛍だからに決まってんじゃん」
「…私?」
「惚れたオンナに優しくして何がいけねぇの」
「…ひぃ」
蕩けるような笑みでそんなことをさらっと言うもんだから、心臓がうるさい。
鼓動の速さが熱のせいなのか、竜胆くんの存在のせいなのか…自分でもわからなくなる。
でも貰ってばかりはイヤだから、返したい。
手を伸ばして竜胆くんの手をさがす私の行動に、すぐ気づいた竜胆くんは何も言わずに指を絡めて握ってくれる。
「竜胆くん、すき…だいすき」
「ん、オレは愛してる」
「っ…ふ、うぇーんっ」
「だぁから泣くなっつの。メンタル落ちすぎだろオマエ…」
返してもまた返されるから、勝てる気がしないけど。
「…そばに、いてほしい…」
「ん。どこにも行かねぇから、もう寝な」
顔中にキスを落としてくれる竜胆くんの唇がくすぐったくて可笑しかったけど、心の底から安心できて。
そのまま、すぐ眠りについた。