第14章 たまには家で《灰谷竜胆》
安心感のある腕に抱かれたまま行きついた先は、冷蔵庫の前。
しゃがみ込んだ自分の膝に私を乗せて、器用に冷蔵庫の中から冷えピタを取り出し、すぐに立ち上がった。
次に向かった先は、寝室で。
外から来たばかりでまだ少しひんやりしている竜胆くんのスーツに頬を擦り寄せていれば、あっという間に私の背中がベッドのシーツに沈んだ。
また離れようとする竜胆くんのスーツを再度掴めば、呆れたような笑みを浮かべながら額に唇を落とされて。小さく響くリップ音に、なんとなく力が抜ける。
私に布団を被せて、その上から竜胆くんは脱いだスーツのジャケットを被せてきた。おかげで、まるで竜胆くんに包まれているような感覚になる。ジャケットに竜胆くんの香りが染み付いているからだ。
「貼るぞー冷てぇからな」
「ん……ひっ」
「ふはっ、ビビりすぎ」
肩をすくめる私の反応に、楽しそうに笑う竜胆くん。
私を落ち着かせるように頬を滑っていく彼の手は、額に貼られた冷えピタよりも心地いい。もっと触れてほしい。
「なんか食って解熱剤のまねぇとな。ゼリーとかある?」
「……たしか、いっこだけ」
「ん、取ってくる。すぐ戻っから」
食欲がないことは、竜胆くんにもわかっていたらしい。
私の頭をひと撫ですると、ゼリーを取りにまた冷蔵庫のところへ戻っていった。
竜胆くんがかけてくれたジャケットをそっと握りしめて、鼻に当てる。
戻ってくるまで、これで我慢するんだ。
「もう食わねーの?」
「うん…もういいよ、ありがとう」
カップゼリーの3分の1くらいを食べて、リタイアした。
好きなフルーツのゼリーなのに、食欲がないとそんなの関係なく食べられなくなる。困ったものだ。
ゼリーをお皿に移してラップをかけてくれた竜胆くんが、薬を手にして戻ってきた。
見慣れない錠剤に、思わず訝しげに見つめてしまう。
「ほら、薬飲め」
「……」
「安心しろって、ヤク中から貰った変なやつじゃねえことは確認済みだよ」
喉仏を揺らして笑う彼の言葉に、肩を落として安堵した。
竜胆くんが変な薬を持ってくるとは到底思えないけど、薬物依存のお仲間さんが彼になにを渡したか気になっただけで。
本当に、竜胆くんを疑ってるわけじゃないんだよ。