第13章 パステルピンク《今牛若狭》●
それからまた数年後の、クリスマス。
仕事帰りに若狭くんと駅で待ち合わせして予約していたケーキや美味しいものをテイクアウトして帰ろう、と約束したとおり、私は待ち合わせ場所の駅へ向かっていた。
平日の帰宅時間ということもあって混雑している電車から降り、人の流れにそいながら若狭くんが待っている場所へ急ぐ。
イルミネーションやツリーの明かりが眩しい広場まで来ると、楽しそうに笑みを浮かべる老若男女が溢れかえっていた。
その中から恋人である彼を見つけるため、メールでの会話を確認しながらキョロキョロと見渡す。
「おねーさんひとりぃ?」
知らない人に声をかけられた瞬間、派手な格好をした女の子たちに囲まれている若狭くんが目に止まった。
口元をマフラーで隠して、上着のポケットに片手を突っ込んで携帯をいじっている。
ピロン、と握りしめた携帯に通知がきて、見れば「着いた?」と一言。
まるで、初デートの時みたい。
懐かしい既視感に思わず笑みがこぼれた。
「あれ、無視しないで?」
「良かったらそこのカフェでケーキ…」
「恋人が待ってるんです、あそこの人」
男性二人組に振り返ってやんわりと断りを一言残し、女の子に騒がれているせいかため息を吐くように肩を揺らしている彼の元へ、走り出す。
彼が顔を上げないから、視線は合わない。でもそれはきっと、私が自分のところへ来るのがわかっているからだ。
「若狭くん!」
走る速度を落として数メートル先の若狭くんを呼べば、ようやく顔が上がる。
同時に女の子たちもこっちを振り返るけど、そんなの気にしない。
だって、あなたたちが囲んでるその人は、私の恋人なんだもの。
「お待たせっ」
「ん。おつかれ」
「若狭くんもお疲れ様、美味しいもの買って早く帰ろ?」
「…まァ、オレは夕飯は蛍でいいけど」
「ちょ、そういうことは外で言わないで…っ」
まだ女の子たちがいるのに…!
若狭くんの態度の変わり様に、女の子たちはつまらなそうに踵を返して去っていく。
優越を感じたことは、若狭くんにはナイショ。
「先に渡す。はいコレ」
「わ、ありがとう!今開けていい?」
「ウン、今の方が嬉しいし」
ポケットに突っ込んでいた手で頬を撫でられながら、若狭くんから手渡された小箱を開けると、ひとつの鍵が入っていた。