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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●






「………っ、?」



けど、いつまで経っても唇に感触はやって来ない。

おそるおそる目を開ければ、あと数センチでくっつきそうなほどの至近距離に若狭くんの顔があった。
ぬるい風に乗ってふわふわと揺れる若狭くんの髪が、頬に触れてくすぐったくて。
ジッと見つめてくる視線に耐えられず目をそらせば、私のうなじに触れたまま若狭くんはあやめ色の瞳を輝かせながらフと微笑む。



「キス顔もかわいいね、蛍は」
「…え」



きす、顔…?
もしかして、目をつぶったから?

理解した途端に、からかわれたのだと気づいた。
若狭くんの胸を両手で押して離れようとするけど、無駄だとでも言うように指の背で頬を撫でられ…そして、若狭くんの言葉に私は抵抗できなくなる。



「蛍、“白豹”のこと好きなの?マイキーが言いかけてたけど」



ン?と、頬を撫でていた手で私の髪に指を絡ませながら首を傾げる若狭くんに、これはどうしたって逃げられないんだなと早々に諦めた。

だって、下着を見られて殴り抜歯してしまった初デートの相手が、実は密かに想っていた人で…その人がすぐ目の前にいて、そんな確信めいたことを言っちゃうんだもの。

逃げ道があるなら、教えてほしい。



「……たぶん」
「たぶん?」
「…顔も知らない、本名も知らない、学校も住んでるところも何っにも知らない人だったから、“しろひょう”さんは」
「…まァ、そだね。…“白豹”サンは蛍のこと知ってたけど」
「?…っえ!?」



余裕を持てあましている様子の若狭くんから、まさかの爆弾発言。
唐突すぎて、反応が遅れてしまった。

あの時、私は若狭くんの顔を見ていない。
だから若狭くんも、私のことはわからないはずだと思ってたのに…



「大人しい感じの子が路地裏に入ってったから、やべぇかもって思って追っかけたらあんなことになってて」
「っ、そん、な…」
「蛍がオレを探し回ってるのも知ってたけど…追うのは好きでも追われるのはオレ嫌いだから、ほっといてた」



ほら、豹だし?

そう自分で言いながら、クスクスと笑う若狭くん。
睫毛が長いなぁとか、相変わらず肌が白いなぁとか。今考えることじゃないのに、若狭くんがあまりにも自然に笑ってくれるから。
心臓がうるさくて、逆に何も考えられない。


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