第13章 パステルピンク《今牛若狭》●
「…万ちゃん、違う、約束ってそんなに軽いものじゃないんだよ」
「? ウンコいっぱいでたよ」
「そういう意味じゃない〜っ」
まだ小学1年の子供に話した私がいけなかったのかもしれない。
特に万ちゃんは聞き分けが悪い時があるから…
ああ、何でインターホンが鳴ったとき万ちゃんに対応させちゃったの、私…!
「とにかく、約束は破っちゃダメ!私だけじゃなくて、お友達との約束も…ッわ!?」
「マイキー、これ真ちゃんに渡しといて」
突然、グッとお腹に圧迫感がやってきて。
とっさにお腹を見下ろせば、後ろにいる若狭くんの片腕がまわっていた。
次いで、ふわりと浮遊感が押し寄せてきて履いていたスリッパが足から落ち、代わりと言わんばかりに視界の端で若狭くんが私のサンダルを掴んでいる。
なにこれ、どういう状況??
「え、ちょ、若狭くん?ねえっ」
「ちょーっと蛍借りンね」
「?わかった、シンイチローにいっとく」
「ん、イイ子」
事も無げに私にサンダルを履かせた若狭くんは、万ちゃんの頭をするりと撫でて玄関から出ようとする。
離してと抵抗しても、お腹にまわった若狭くんの腕が緩むことはなく。
何をするのか、どこへ行くのか聞いても「ン〜」としか返事をしてくれないし、ぷらぷらと揺れる自分の足を見つめるしかなかった。
家の外に停めてあった若狭くんの愛機に乗せられ、会話もなく数分後に停まったのは湖がある公園の駐車場。
エンジンを止めて鍵を抜いた若狭くんは、私も降りるように促してくる。
ヘルメットを引っこ抜かれて、間髪入れずに手を引かれてたどり着いたのは、湖のほとりだった。
そこでふと、自分の格好に気づく。
一日中家にいる予定だったから、半袖Tシャツに中学時代の体操着の半ズボン。それから、適当にひとつで縛った髪。
身内以外の人にこんな格好を見られるのはちょっと…恥ずかしい。
「…あの、若狭くん。さすがにそろそろ、ここに連れてきた理由を教えてほしいんだけど…」
立ち止まって湖を見つめていた若狭くんが、私の言葉に振り向く。
すると突然、両手を伸ばして私のうなじに触れてきた。
驚く間もなく真剣な顔を近づけられ、「あ、キスされる」…なんて、不思議と冷静に察してしまった私は、ギュッと目をつぶった──…