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【東リべ/中・短編集】愛に口付けを

第13章 パステルピンク《今牛若狭》●




玄関の引き戸が開く音がして、耳を傾ける。
知り合いか、ご近所さんか、もしくは不審者か…声でわかるといいんだけど。



「あれ、ワカ」
「マイキーじゃん、コンニチハ」



…なんだって?
何で若狭くん?
メールでは来るって言ってなかったのに…あ、もしかして真ちゃん?



「コンニチハ。どしたの?」
「真ちゃんいる?借りてた雑誌返そうと思ったんだケド」
「エロほん?」
「違ぇわ。バイクな」
「シンイチロー、エマとコンビニいった」
「あー、そ。……蛍は?」



びく、と手が止まる。
食器を落とさないよう、そっとシンクに置いた。

…何で私の名前が出てくるんだろう。
毎日のようにメールしてるのに、…え?待って、本当にどういうこと?



「あらいものしてる。なんで?」
「んー?…あわよくば会えたらいーなって思ってたから」
「ふーん。もしかしてワカ、蛍のことすきなの?」



…ちょっと、万ちゃん?



「…さあ?どうだろ」



待って、若狭くん何その返事?

ドクドク、心臓が大きく脈打ってうるさい。
若狭くんと初めて会ったあの日を思い出した直後に、こんなことになるなんて…
お願いだから、万ちゃんが変なこと言いませんように。

蛇口を捻って、手の泡を洗い流す。
万が一のことを考えて、すぐ走り出せるように心の準備もしておかなきゃ。



「すきなんだ?」
「マイキーにはまだ早いかもな」
「うっさい。…でもダメだよ、蛍すきなひといるし」
「…へぇ?」



あ。
嫌な予感。



「マイキーはさ、知ってンの?蛍の好きな人が誰か」
「ウン、しってる。しろひょ「万゙ちゃんッッッ!!!!!」」



大声で名前を呼び、万ちゃんの言葉に私の声を重ねた。
案の定暴露しようとした万ちゃんの元へ、はしたなくもバタバタと足音を響かせながら一目散に向かう。

私の足音に、二人はこちらを見ていた。
でもそれどころじゃない私は二人の間に入り、若狭くんに背を向けて万ちゃんの口を慌てて押さえた。



「何言ってるの、何で言っちゃうの!?教えたとき内緒ねって約束したじゃん!覚えてるでしょ!?」
「ウン」
「約束だよってたい焼き買ってあげたじゃん!」
「ウン。でももうウンコになってトイレにながしたから、いいかなって」


…はい?


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